今の日本株上昇の理由と、今後の持続性を考える 経済正常化のロードマップなければ根拠は薄弱

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ワクチン開発国でもなく、また開発国から地理的に離れているという条件にもかかわらず、その調達に算段をつけ、世界最速の接種ペースを実現したことは菅政権の実績である。しかし、この実績の総仕上げは行動制限解除を伴う経済正常化のロードマップを描いてこそ完結するものだったのも確かである。新型コロナウイルス感染症対策分科会と溝を深めても五輪開催に踏み切ったのであれば、そのタイミングでロードマップも示すべきだった。

国内経済の再開に関して「ワクチン接種率が高まっても油断するな」と情報発信しながら、「しかし、五輪は敢行する」という意思決定が多くの国民に矛盾と受け止められ、支持層が離反してしまったように見受けられる。日本は「ワクチン接種で出口に辿り着く」という欧米型アプローチを志向しているようでいて、実際はできていない。その戦略性の欠如に対する不快感が支持率低下の背景にあったのだろう。

河野氏は株価の上がる候補なのか

株価の話に戻す。菅政権退陣が株高の理由ならば「新政権には相応の期待が持てる」という話に直結するはずだ。それは本当だろうか。自民党総裁選挙の行く末は河野太郎行革担当相のリードが伝えられるものの、まだ予断を許さない。また、各候補者の唱える経済政策に関しては大まかに示されているものの、不透明な部分も大きい。

例えば、河野行革担当相は金融政策並びにインフレに関する所見として「経済成長の結果からくるもの」と2%物価目標の達成を疑問視する姿勢が報じられている。これは「物価が高くなれば成長率もついてくる」というリフレ政策に通底する倒錯した思考回路を暗に批判しているようにも見える。この考え方自体、筆者はまったく同感だが、株式市場参加者に好まれる考え方ではない。

また、ロックダウンの法制化に前向きな同氏の防疫姿勢は経済成長にとっては致命傷になりかねず、やはり株価連騰とは矛盾するものである。もっとも、同氏の持論として危惧されていた「脱原発」については、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と現実路線への転換も垣間見られている。これが株価にとって補って余りあるプラス材料と受け止められている可能性はあるものの、総じて株式市場参加者が総裁選を吟味したうえで株価形成に寄与しているとは考えにくい。

なお、「レジームチェンジが買い戻しの理由として使われただけ」という解説も捨てきれない。年初来の日本株への評価は先進国中で圧倒的に低かった。それだけショート(売り)が積み上がっていたという事実もあるだろう。アベノミクスのフレーズと共に展開された2012年12月以降の大相場が頭をよぎった参加者もいるかもしれない。

要するに足元の株高は「単なるポジション調整」の域を出るものではなく、持続可能性を期待させる動きとは言い切れない。新政権が防疫政策に関し欧米型のアプローチに傾斜すればその限りではないが、この点は難しそうである。

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