今の日本株上昇の理由と、今後の持続性を考える 経済正常化のロードマップなければ根拠は薄弱

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次に、感染者数の顕著な減少傾向である。

真っ当に考えればこれは株高の理由にふさわしい。しかし、正確には「感染者数の顕著な減少」はその結果としての「緊急事態宣言の解除」、そして「行動制限の解除」に至るはずのものである。接種率の1回目がアメリカを超え、2回目もほぼ並んだ今、「行動制限の解除」こそが日本経済復活のカギに決まっている。

しかし、過去1年半にわたる分科会の挙動を踏まえる限り、この「真っ当に考えれば」が通用する保証はない。ひいては政府・与党も結局は分科会の姿勢に沿った意思決定を下す可能性が今後も否めない。そもそもイギリスやアメリカが春先に提示したようなロードマップすら日本にはまだ存在しない。自民党総裁選候補者からもそのような議論がほとんど見られていない。

本来、感染者が急減しているこのタイミングでの総裁選なのだからロードマップの中身が議論されるべきだと思うが、逆に「ロックダウンの是非」が争点化している。感染状況と経済成長のバランスを取った合理的思考ができるならば、ワクチン接種率が50%超えた状態で緊急事態宣言の延長などあるはずがない。今の日本の為政者に対し、コロナに係る各種行動規制が顕著に緩和されるといった方向で、過大な期待を抱くべきではないと筆者は思う。

戦略がない以上、あやまちは繰り返される

もっともありそうなシナリオは、いったん解除しても冬場に次の感染の波が来たときに緊急事態宣言が解除されたことに帰責する議論が繰り返され、再び宣言発出に至るという展開である。そもそも遵守すべきロードマップが存在しないので、場当たり的にブレーキを踏んで様子見するしかない。ロードマップは非日常を終わらせるための戦略だが、この戦略がないために「世界最速の接種率」という現状考えられる最高の戦術も活かせず、G7最低の成長率に沈んでいる。ここまでが事実である。

9月に入ってからの株高はその事実が劇的に変わらなければ持続が難しいように思う。戦争の格言に「戦略の失敗は戦術で取り返せない」といったものがあるが、今年の日本はそのままこれが当てはまる。戦略がないことそれ自体が「戦略の失敗」であり、この状況は新政権でも続くのだろう。

とすれば、もとより「ゼロリスク信仰」への傾斜度合いが大きそうな日本人の気質を踏まえれば、これまでどおり「第6波が不安」という声の下、中途半端な行動規制をかけたまま10~12月期も緊急事態宣言を繰り返すことになると考えられる。

それはFRBやECBが量的緩和の段階的縮小(テーパリング)の意思決定を下す時期と一致するはずだ。実質実効為替相場で見た円は1970年代前半の水準にとどまっており、日本の弱さを如実に映す状況が継続中だが、足元では好調な株価もこれと整合的な下落に戻っていくと筆者は予想している。このような暗い予想が外れることを祈りつつ、自民党総裁選挙と新政権の政策運営を見守りたい。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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