中国政府が濫用、「内政干渉」がはらむ深刻な問題 議論を封じ込め、国際社会との対話も回避

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これも習近平主席になってからのことではなく、2000年代初めに温家宝首相は、アフリカ諸国の人権問題について聞かれ、「各国とは相互尊重と内政不干渉の原則を守る」と答えている。まことに都合のいい使い方であり、相手国の問題に目をつむったまま自国の影響力を拡大するという積極的な使い方である。

3つ目が領土問題などに関するかたくなな対応をするときの道具としての内政干渉である。2021年5月、日本が台湾にワクチン供給したことに対し、中国が「コロナ対策を政治ショーに利用して中国に内政干渉することは断固反対する」と批判したように、中国は自分たちの主権が及ぶとする地域に外国が関与してくると、間違いなく内政干渉を持ち出してくる。

国際社会と対話する気のない中国

東シナ海の尖閣諸島への中国の公船の領海侵犯も、海底ガス田の開発も、さらには南シナ海のサンゴ礁の埋め立てと軍事基地建設などもすべて中国は自分たちの当然の権利であり、他国にとやかく言われることはすべて内政干渉であって認めることはできないとしている。

これらの姿勢に共通しているのは、中国には国際社会とまともな対話をする気がないということだ。習近平主席は7月の中国共産党創立100周年記念式典の演説で、「中華民族には5000年の歴史で形成した輝かしい文明がある。師匠のような偉そうな説教は絶対に受け入れない」と、アメリカなどが人権問題に口を出してくることに強く反発した。

こうした対応は、中国が国際社会の批判を気にしていないのではなく、逆に外国から国内の問題点を指摘されてそれを認めれば、共産党が誤りを犯したことを認めることになり、一党支配の正統性を傷つけることになるからだろう。党支配を揺るがすようなことは習近平主席ら党中枢が決して認めるものではない。ゆえにかたくなな態度を取らざるをえないのである。

しかし、自分たちの主張は絶対に間違っていないから、話し合う必要はまったくないという姿勢では外交など成り立ちようもない。

内政干渉という言葉を振りかざすだけで、他国の主張に聞く耳を持たない。対話をする気がない。自分たちの正当性しか主張しないというかたくなな中国外交の姿勢によって、中国とはまともな会話ができないという空気が国際社会に広がっている。

その行き着く先は、中国の外交空間の縮小であり、中国の孤立化であり、世界の分断である。もちろんそんなことをわかったうえでやっているであろうから、中国とはやっかいな国である。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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