「ゲレンデのEV」まで用意するベンツのEV戦略 EQブランドで「フルラインナップ」を目指す
ディーター・ツェッチェ前CEOは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンから、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHEV)などへの段階的な変化を前提に、EQはマイクロカーの「スマート」を基点とした“緩やかなEVシフト”という考え方だった。
また、メルセデス・ベンツのマーケティング用語として、「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)路線を敷いたとはいえ、電動化はあくまでもCASEの一部という位置付けだったはずだ。
それが、2019年頃からESG投資の自動車産業界への影響力が急激に拡大してきた、例えばテスラの株価が高騰するなど、市場環境は急変する。
13年間に渡りトップに君臨したツェッチェ氏は、2019年にCEOを退任したが、このタイミングで新経営陣は、それまでのEV量産化に関する研究開発を踏まえて、完全なEVシフトに向けた大きな方向転換を決断したといえる。
ただし、その時点でEV100%を目指す2030年までには残り11年間しかなく、“市場環境が整えば”という含みを持たせたとはいえ、目標達成のためには既存モデルのEV化は必然だったといえる。
これと並行して、2025年にEV専用車体を導入するが、タイミングとしてはトヨタやGM(ゼネラル・モーターズ)などと比べるとやや遅い。これも、メルセデス・ベンツが既存モデルのEV化を積極的に進める要因になっていると思う。
プロダクトアウトの行方
今回のメルセデス・ベンツのEVシフトは、欧州委員会(EC)などによる「レギュレーション・ファースト」と実質的に連動した、メーカーによる「プロダクトアウト」型のブランド戦略だ。
世界のユーザーや販売店からの「EVがほしい」という声に対する「マーケットイン」型のブランド戦略ではない。
こうした現状について日系メーカー関係者に話を聞くと「我々にとっては現実的ではない。思い切ったEVシフトは(メルセデス・ベンツ、ボルボ、ジャガーのような)プレミアムブランドだから早期に実現できることだ」という意見が多い。
プレミアムカーで先行する急激なEVシフトが今後、市場全体にどのような影響をもたらすのか。今から“たった9年先”から始まる2030年代の自動車産業の図式を明確に予想できる人は、現時点で自動車産業界に1人もいないのではないだろうか。
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