「ゲレンデのEV」まで用意するベンツのEV戦略 EQブランドで「フルラインナップ」を目指す

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中国市場で量産されている「シルフィEV」など一部を除いて、「ノートEV」「スカイラインEV」「セレナEV」「フェアレディZ EV」といった、既存車ベースのEVフルラインナップを早期に行う計画はない。

ただし、日産の内田誠CEOは今期第1四半期決算発表の際、「今秋に、事業再生計画NISSAN NEXTの次の方針として、電動化戦略を含む将来構想を明らかにする」と発言しており、グローバルでの急激なEVシフトへの対抗策として、「〇〇EV強化策」を打ち出す可能性も否定できない。

徹底した出口戦略

メルセデス・ベンツのEQ戦略と、日系メーカーのEV戦略の大きな違いの理由を、筆者は「ESG投資ファーストに対する徹底さ」だと見ている。

ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく環境、社会、ガバナンス要素も考慮した投資のことで、自動車産業界では2019年頃から重要視する動きが高まってきた。

メルセデス・ベンツが2021年7月に示した事業方針「2030年までのEVシフト」が、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が、ESG投資対応を政策の中核に据えた「欧州グリーンディール」にリンクしていることは明らかだ。

IAAモビリティ2021に出展したメルセデス・ベンツのブース(写真:Daimler)

発表時期から考えても、ダイムラーを含めたヨーロッパ自動車産業界全体が、ECと水面下でEVシフトについて協議を進めてきたと見るのが妥当だろう。そうしたヨーロッパの各メーカーの中で、メルセデス・ベンツのESG投資に対する徹底した事業戦略が目立つ。

これまでのヨーロッパでのEVシフトを振り返ってみると、2016年のフォルクスワーゲングループの中期経営計画が火種となり、この時点でダイムラーもコンチネンタルなど自動車部品大手らとEVシフトを協議してきた。

ドイツをはじめ世界各地で取材するとメルセデス・ベンツのEQ構想は、フォルクスワーゲンが積極的に事業化を推進するEV専用シリーズ「I.D.」に比べて、市場の動きを見極めるような慎重な姿勢をとっているように思えた。

メルセデス・ベンツにとっては、2010年代初頭に計画した自社によるEV用電池開発を含むEV戦略での経験が、影響しているのではないか。当初、メルセデス・ベンツはドイツとの政治的なつながりが強い中国政府の国策であるNEV(新エネルギー車)への対応を重視しているように見えたからだ。

例えばメルセデス・ベンツは、他メーカーでは手を付けない「燃料電池(FC)プラグインハイブリッド車」のコンセプトモデルを中国向けとして発表するなど、日系メーカーと同じような仕向け地ごとの社会情勢に合わせた、段階的な電動化を模索してきた。

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