自宅療養者1日100人超を診る医師団の過酷な現場 120人の登録医師が24時間対応でもパンク寸前

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「パルスオキシメータの値が94〜95ということで入院が認められず、自宅療養をしていると。とくに今日は胸が苦しくて、怖くなってわれわれを呼んだとのことです」

医療設備も乏しい患者の自宅で診療に当たる(筆者撮影)

94~95とは「血中酸素飽和度」のことで単位は%。肺から取り込んだ酸素は赤血球に含まれるヘモグロビンと結合して全身に運ばれる。血中酸素飽和度とは、心臓から全身に血液を送り出す動脈の中を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているかの値で、パルスオキシメータで計れる。

約96~99%が正常値で、93%以下になると酸素投与が必要となる。90%を下回るとかなり危険とされる。だが、正常値に近いとはいえ、94~95%は中等症Ⅰに当たり、肺炎が疑われ本人は明らかに苦しく、病床に余裕があれば入院に至るレベルだろう。

こうした場合、ERドクターたちはどんな対応をするのか。

「患者さんの容態を観察して、療養中の注意点やアドバイスなどをする。解熱剤を持っていなければ処方する。重篤化しそうなくらい症状が重ければ、こちらで保健所などに掛け合って、入院の手伝いをすることもある」

だが、最近は深刻さを増しているという。「われわれ医師でもどうにもならないケースがほとんど。それくらい受け入れ先がない。現場を回っている僕の実感からすれば、明らかに医療は崩壊している」。

モンスターカスタマーさえも請け負う覚悟

ナイトドクター事務局の仕事が増える一方で、トラブルも頻発するようになったと菊地氏は言う。

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「コロナは人を選ばないが、われわれも患者を選べない。そのためいわゆるちょっとコワモテのお客様の人から、『PCR検査の結果を今すぐ出せ』『嘘でもいいから陰性証明を出せ』などと脅されることも。訪問診療でできることには限界があるのだが、『すぐに治せ』『効果がなかったから料金は払わない』など悪質なクレームも増えている」

しかし、「そうした人たちも含めて請け負っていかなければ、日本の医療は完全に崩壊してしまう。そんな思いで今は粛々と日々の仕事をやっていくしかないと考えている」と菊地氏は打ち明ける。

ちなみに訪問診療の料金は、保険適用のため通常の病院とほぼ同じ。利用者にとっては便利だが、事業者にとっては「忙しいだけのボランティア」と化している面もある。彼ら訪問医療に携わる人々の使命感だけに頼っていてはいつか限界が訪れる。国や都は、危機的状況に陥っている医療体制の現状を早急に見直す必要がある。

根本 直樹 ライター

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ねもと・なおき  / Naoki Nemoto

1967年生まれ。立教大学文学部仏文科中退。その後『週刊宝石』記者を経てフリーに。主に暴力団や半グレなどアンダーグラウンド分野の取材・執筆活動を続けている。

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