わが国はほかの欧米諸国と比較して、重症者や死亡者の数を含めた感染の程度は比較的抑え込まれている。罰則を伴う強制的なハードロックダウンではない、「お願いベース」外出自粛要請であったにもかかわらずマスクを装着し、手指を消毒して、「3密」を避けるという、国民のある意味での「遵法精神」が奏効した可能性が大きい。
また、保健所にまだ余裕があった段階(準備余力のほうがパンデミックの拡大3次元(後述)を凌駕していた段階)では「さかのぼり調査」(感染者がどこで感染したかを過去にさかのぼって調査するもの。通常、他国では、感染者が感染させた可能性のある濃厚接触者のみを追う「前向き調査」が主流)で、どういうシチュエーション(3密)が危険なのかが明らかにされ、国民もそうしたシチュエーションを回避する行動を取ってきた。
さらには、東アジアの国々全般では欧米と比較して感染者や重症者が少ないが、その理由として、当初、喧伝されていたBCG接種(欧米ではすでに廃止されているがアジアでは継続されている)との関連よりは、むしろ、当初感染が広がった中国と地政学的近接性が高いにもかかわらず、アジアでは交差免疫(東アジアでは何年か前に今回の新型コロナに抗原性が類似した「コロナ風邪」が流行したため、その罹患者は一定の免疫を有しているという仮説)が存在したとする説が有力である。
ワクチン接種者の重症化や死亡は極めてまれ
昨年1月に始まった日本における新型コロナウイルスによる感染だが、無観客ではあったが東京オリンピックは開催され、選手団や関係者、報道陣等8万人を超える来日があった。これと感染爆発の因果関係を証明するのは容易ではないが、自粛に伴う長引く緊張感の弛緩が助長された可能性はあるだろう。
ただし毎日の死亡者数は最も多い時期の2分の1程度で、陽性者数の割には少ない。ワクチン接種者はブレークスルー感染を起こすことはあっても重症化や死亡は極めてまれで、すでに接種が進んでいる医療従事者や高齢者の重症例は少ないし、諸外国と比較しても感染者のうち死亡する者の割合(致死率)は低い。
こうした今回の新型コロナウイルス感染症によるパンデミックがもたらした「健康危機」がわが国に問うているのは、何であろうか。
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