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災害が多発する地球と「人新世」が未来に残す痕跡 コロナ禍が問いかける現代の物質文明のあり方

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  • 塚原 東吾 神戸大学大学院国際文化学研究科教授
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残念ながら日本では、類似の例は考えにくい。あえていうなら、腕ききの科学ジャーナリストが、もしくは文学的素養のある環境学者が著した良質のルポルタージュのようなものである。

文学の教授が環境学の専門家への「ディープ・インタビュー」を行って、未来にも残るであろう「痕跡になるか」、それはその場合、どのようなものとなるかという考察を行っている貴重な本である。

多重災害の時代の「環境人文学」

災害は「忘れた頃にやってくる」。そして忘れやすい。だが現下のわれわれは、コロナという災害のただ中にいる。

激甚な暴力的介入による災害ではなく、不可視のウイルスによるもので、無症状や軽症などを含む、複雑で扱いにくい災害である。

この2年ほど、日本を襲っている気候災害は、いわゆる「二重災害」であると考えてもいいだろう。救援や復興には、コロナの蔓延が懸念され、阻害要因となっている。

コロナの原因は自然環境の撹乱に由来するものであるという見解もある。その意味で、「災害は1つではやってこない」のが21世紀的状況なのかもしれない。

人新世と呼ばれる大きな変容とそれに対する対応を考えるためには、すでに理系と文系とを分けてはいられないだろう。ビジネスの現場や、いわゆる文化系の人々の間でも、環境問題をどう考えるかについては、深い洞察が必要である。

本書は理系と文系の壁をあらかじめ取り払って、人新世という時代の感性を問うている作品である。

近年では文学だけではなく環境史や環境倫理などを含めて、「環境人文学」という領域が必要だともいわれている。そのためにも、専門領域を軽々と超えているこの書から学べることは多いだろう。

環境文学の感性が光るこの一書はまた、環境学に果敢に挑み、文学の言葉を豊かに使ってわれわれに重要なメッセージを伝えている、良質な科学コミュニケーションの書といってもいい。

本書は来るべき環境を考え、具体的なビジネス展開を構想するための「ディープ」な基盤を準備し、その「未来の痕跡」を考えるためにも、必読の一書である。

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