大阪IR誘致、政府の「ソロバン勘定」は正しいか 外資と天下り組織に流れる日本人客の賭け金

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2015年、中国政府が汚職撲滅キャンペーンをはじめたとたん、マカオやシンガポールのカジノの売り上げは一気に3割も減った。アジアのカジノビジネスの生殺与奪は中国共産党に握られている。反日運動が再燃すれば、中国人客は来なくなる。それでもやっていけるのだろうか。

一方でカジノ客の多くは日本人が占めるという予測がある。大阪府の試算では7割、立候補を検討していた北海道の試算は8割を日本人客と見込んでいた。だととすれば、国民がギャンブルに投じた金のあがり、つまり日本人が博打で負けた金の多くを外国企業が持っていくことになる。業者の利益と地域、ひいては国や国民全体の利益は必ずしも一致するわけではないのだ。

さらに国全体の収支で忘れてならないのは、カジノ誘致のために新たな政府組織を立ち上げたことだ。内閣府の外局として設置したカジノ管理委員会である。免許の審査や付与、依存症対策にもあたるらしい。5人の委員にスタッフは約100人。今後増えることもあるという。予想どおり、検察、警察、国税などの天下りを抱える組織だ。一度できた官僚組織がなくなることはまずない。パーキンソンの法則である。

ディーラー3000人をどう集めるか

カジノに関する知見が必要だとして、IR誘致を支援する監査法人からの出向者も管理委員会の事務局に入った。きちんとした規制ができるのかも疑問だ。

もう1つ気がかりな点を挙げておこう。世界的な規模のカジノを設営するなら約3000人のディーラーが必要になるという。人手不足の日本でどうやって確保するのか。外国人客を相手にするなら中国語や英語の心得も必要となる。外国人労働者を受け入れる在留資格「特定技能」の業種にカジノを新たに加えるのだろうか。

カジノを設ければ、依存症や風紀の乱れ、反社会的勢力の関与のおそれといったリスクを抱えることになる。それらを明らかに上回るメリットがあるなら、プロジェクト推進に個人的には異議はない。

しかし今わかっていることと言えば、外国企業が主体となる連合体が建設・運営し、維持・管理するために新たな天下り組織を作ることぐらいだ。カジノが一体いくらの税収をもたらし、国として帳尻が合うのか。国民にメリットがあるのか。さっぱりわからない。

大和総研や経団連はIR誘致によって、兆円単位の経済波及効果をうたう予測を発表している。だが政府は経済効果や税収の見込みを示していない。さまざまな条件が決まらないから予測はできないという。ならば誘致は文字どおりギャンブルではないか。そんな賭けをする余裕がいまの日本にあるとは私にはとても思えない。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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