「アクリル板」実は感染対策に逆効果だという衝撃 正常な換気を妨げ、エアロゾル感染増やすかも

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大半の研究者は、仕切りは極めて限定的な状況でしか役に立たないと口をそろえる。例えば、床から天井まで届くアクリル板で客席と遮断されたバスの運転席がそれに当たる。こうすれば、運転手は乗客の呼気をあまり吸い込まなくてすむだろう。ガラスの壁で仕切られたアメリカの銀行の窓口係や、同様にガラスの向こう側にいる病院の事務員も、少なくとも部分的にはウイルスから守られているといえそうだ。

学校やオフィスにアクリル板を設置したときの影響を確定するにはさらなる研究が必要だが、取材したエアロゾル専門家の全員が「机のアクリル板が感染防止に役立つ可能性は低く、部屋の正常な換気を妨げる可能性が高い」という見解で一致した。条件によっては、アクリル板のせいでウイルスの粒子が部屋に蓄積することにもなりかねないという。

エアロゾルの専門家は、学校や職場は仕切りではなく、効果の実証された対策に集中すべきだと話す。ワクチン接種可能な学生や従業員に接種を奨励したり、換気を改善したり、必要に応じてHEPAフィルターによる高性能な空気清浄機を導入したり、マスクの着用を義務付けたりする、ということだ。

生兵法はけがのもと

問題は、オフィス、レストラン、ネイルサロン、学校などに設置されている仕切りの大部分が、空気の流れや換気を評価できる工学専門家の助言なく設置されていることだと専門家は言う。

もちろん、アクリル板が設置されているのを見てパニックになる必要はないが、アクリル板によってウイルスから守られていると錯覚してもならない。仕切りのある環境にいる従業員や学生は感染リスクを下げるためにマスクを着用し続けるべきだ、とカリフォルニア大学デービス校のリチャード・コルシ次期工学部長は言う。

コルシ氏によれば、「部屋の中の空気の流れはとても複雑だ。家具の配置、壁や天井の高さ、通気口、本棚の位置など、部屋にはそれぞれの違いがあり、そうした違いのすべてが、実際の気流や空気の分布に大きな影響を与える」。

(執筆:Tara Parker-Pope記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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