成功ストーリーばかりを学んでも意味がない理由 本来のナレッジマネジメントは失敗知識の活用

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パターン活用で危機を回避する

関心をお持ちであれば、本書をご覧いただきたい。では、こうしたパターンがわかったらどうするのか? いうまでもなく、ピボット(軸足を決めつつ方向を転換する)だ。

これまでの失敗の概念では、失敗が起きた原因について情報収集と分析を詳細に行い、結論づける。そして、次の機会に未然に防ごうとする。それはイベント(事故)が起きた後にしかできない。そして、それが再現されないようにする。したがって、まだ終わってもいないのに分析などできないというわけだ。

ところが、同じような状況はほぼ起きない。これはかつての失敗データベースや知識管理的ナレッジマネジメントの失敗と同じだ。過去の出来事を再利用しようとしても再現性があるとはいえないのだ。

一方、イノベーションは継続的な試行錯誤だ。従来のような失敗分析では、今・ここで起きている事業の修正や未来への学習にはならない。そこで、「輝かしい失敗」のパターンは、これから、あるいは、今・ここでイノベーションにかかわろうというプロジェクトリーダーやメンバーにとっては珠玉の智慧となる。

つまりそれは、これから起こりうる失敗のパターンによって、クライシスを回避できる「早期警戒システム」となるからだ。実は、このような知識の活用こそ、本来のナレッジマネジメントでもあるのだ。

オランダの「輝かしい失敗の研究所」では、失敗事例や失敗を回避した事例などをもとにした、学習コミュニティーのための会員専用のプラットフォームを設けている。そこで、パターンを用いながら、新たなプロジェクトの展開をシミュレーションできるようにしている。

これは、前回の記事に挙げたような「失敗1」(エラー)ではなく「失敗2」(フィードバック)の観点に基づいて、相互にイノベーションの質を高めていこうという試みである。

ただし、そのためには失敗の概念を変え、目的を問い直し、試行錯誤の過程での発見や知恵を共有していこうという姿勢が不可欠だ。

紺野 登 多摩大学大学院教授

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こんの のぼる / Noboru Konno

1954年東京都生まれ。1978年早稲田大学理工学部建築学科卒業。博報堂勤務などを経て現職。博士(経営情報学)。慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授、エコシスラボ株式会社代表、一般社団法人Future Center Alliance Japan代表理事、Japan Innovation NetworkのChairperson、日建設計顧問などを兼務。約30年前からデザインと経営の融合を研究、知識生態学の視点からリーダー教育、組織変革、研究所の場のデザインなどの実務にかかわる。主な著書に『ビジネスのためのデザイン思考』、野中郁次郎氏との共著に『知力経営』『知識創造の方法論』などがある。

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