成功ストーリーばかりを学んでも意味がない理由 本来のナレッジマネジメントは失敗知識の活用

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私自身は、このスタイルもいずれ変わると思っているのだが、これらの前提には「数(多産)の論理」、つまり、多くのアイデアがあったほうが最終的な成功確率は高いという単純なロジックと、「良いアイデアはスクリーニングされて生き残っていく」という性善説的な「自然淘汰」的信念があるようだ。

しかし、このやり方は(私の限られた経験からだけだが)必ずしもうまくいっていない。まずスクリーニングの過程がブラックボックスになっている。

「使える」アイデア評価のコメントとは

多くの企業では、イノベーションのアイデアを評価するための場を設け、そこに外部専門家を招くなどして、きわめて短時間で評価し、選別していく、ということが行われる。これは重要なのだが、専門家によって、与えられるフィードバックなども異なり、本当に面白そうなアイデアが必ず残っていくわけではない。

よくたとえで言われるように、「真のメール」(良いアイデア)を「偽のメール」として仕分けて迷惑メールボックスに入れて(潰して)しまうことがある。もちろん、逆もある。

筆者自身もこうした場に参加することも少なくないが、ここで問われるのが、専門家としてのコメントである。

評価には2種類ある。1つは100点満点中何点かとか、消去法的評価法。もう1つはスープを味見して、もっと美味しくしようとする評価法だ。重要なのは後者である。

アイデア評価の場でのコメントを観察していると、3つほどに分類できる。

① まず論理分析的に矛盾を指摘して、再考を促す。これは大事だ。
② 次に、(大胆なアイデアほどリスクが高いので)無謀な試みを諌めて安全なゾーンに戻す。クライアントに大損をさせないので、安全パイ狙いだ。これはコメントする側のリスクも少ないが、過去の経験からいうと、若い芽を摘んでしまう結果になることも多い。
③ そして、示唆に富んだ、含蓄のあるコメントを出す。たとえば、「顧客のフィードバックをちゃんと得ましたか」「直感だけで判断してませんか」「部分的にしか見ていないのでは?」などなど。

この③のコメントの多くは、「スープの味見型」で、より美味しく磨いていく評価の方法だ。これらは専門家の個人的経験に基づいていることが多いようだ。しかし、単に過去の成功事例や自慢話を挙げてこうしたらうまくいく、などと言われても腹に落ちない。

また、私たちは過去の成功ストーリーばかりに目を向けがちだが、それらの多くには再現性がない。実は、役立つのは彼ら自身の「失敗のデータベース」からの示唆だ。スタートアップにとってエンジェルやコーチが不可欠なのは、彼らの「輝かしい失敗」の経験知ゆえだ。

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