鈴木敏夫を宮崎駿につなげた232冊 ジブリ作品を育てた本の森
もう一つの衝撃は、手塚さんのマネージャーだったという。
「この世のものとは思えないくらい、いいかげんな人で。なぜあの人をマネージャーにしているんですかと聞いたら、『役に立つんですよ、鈴木さん』って。優秀な人だと、仕事が忙しくなって大変ですよと。その人にまかせておけばいろいろなことがうまくいかない。そこで担当者が手塚さんに何とかしてくださいと言いに来る。そこで『なんだ、僕に直接言ってくれればいいのに』って言えるでしょ、と」
「読んでないんですか」
この後も、手塚治虫の一筋縄ではいかない人間性を示すエピソードは尽きなかった。
「一冊、というと本当に悩んじゃうんですけど、なんだかんだいいながら『火の鳥』ですね」
他にあがったのは、バロン吉元の『柔侠伝』、山松ゆうきちの「競輪必勝法」など。青柳裕介の『青い抱擁』も大好きで「週刊漫画サンデー」の連載を毎週切り取っていたという。林静一の『赤色エレジー』も好きな一冊。
「林静一さんは学校を出て東映動画に入って『太陽の王子 ホルスの大冒険』を作っている。高畑(勲)さんと池袋の喫茶店で打ち合わせしている時に、パクさん、って近寄ってきたのが林さんだった」
学生時代、大学院進学の選択肢もあったという鈴木さんだけに、人文書の蔵書も豊富だ。中でも宮崎さんに「読んでないんですか」と言われて読み始めたという堀田善衞とは縁が深い。
「ご縁があって堀田さんのところに年に1回伺っていた。お亡くなりになったあと、娘さんから先生の蔵書を引き取ってほしいと。僕、いただいたんですよ。そこに岩波の古典全集があって、買わなくてよかった!って」
年をとってから古典全集を読むのを楽しみにしているという鈴木さん。岩波書店版(「新日本古典文学大系」)と新潮社版(「新潮日本古典集成」)で迷い、新潮社を選んでいたという。
「岩波の方が立派で、かっこつけるには岩波だけど、実際読むなら新潮社かなと。本文の隣に赤色で現代語訳が書かれていて読みやすいんですよ」
鈴木さんにとっての堀田善衞の一冊は何だろう。
「悩むけど、やっぱり『ゴヤ』じゃないですかね」
本棚は人生そのもの
宮崎さんに言われて読み始めたものに、ネパールやブータンを探検した植物学者の中尾佐助や民俗学者・宮本常一もある。
「『忘れられた日本人』は大好き。もう、いっぱい買ったんですよ、あれ。宮本常一が撮った写真を見るのも好きですね」
読書の原体験とも言うべき少年時代に耽溺した本、漫画、人文書、それから徳間書店入社後配属された「アサヒ芸能」に象徴されるようなルポ・ジャーナリズムもの。鈴木さんの本棚には、鈴木さんの人生の軌跡が表れていて、それぞれからいまのジブリに続く道が見える。
(AERA編集部:小柳暁子、撮影:岡田晃奈)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら