「日航機墜落現場」36年ぶりに訪れて空から見た今 ドローンで現場周辺を空撮し甦ったあの日の記憶

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昇魂之碑を上からアップで(撮影:渡邉秋男)

最初に123便がぶつかった尾根のV字(U字溝)のへこみも御巣鷹の尾根、昇魂之碑からだとはっきりわかるが、その反対の方角から見るとまったくわからない。いつか性能の良いドローンなどを駆使して海からどのように来たのかのシミュレーションや、エンジンを強弱噴射させダッチロールを繰り返しながらも踏ん張った機体が、最後の最後にぐるりと旋回した状況なども3Dテクノロジーで可視化できればさらに事実がわかるかもしれないと感じた。

御座山付近からドローンを飛ばしてみる(撮影:小平尚典)

事故機には多量の医療用ラジオアイソトープ(放射性同位体)が貨物として積載されていたという情報が、ネット上では取り沙汰されている。僕ら捜索に向かっていたメディアは陸上自衛隊の部隊から、何度も注意を受けていた。別途指示あるまで待機するよう厳命されたことが今でも脳裏をかすめる。機体には振動を防ぐおもりとして一部に劣化ウラン部品が使用されていたという噂も耳にする。こういった噂は本当だったのだろうか。

あの日、スゲノ沢で偶然にも生存者を発見できなければ、僕はただ途方に暮れ300mmの望遠レンズを眺めているだけだっただろう。

そもそも「御巣鷹山」とはどこか?

今回のドローン撮影の後、地図で「御巣鷹山」を改めて探してみたのだが、そもそも御巣鷹山とはどこなんだろう。当時、墜落直後に報道されていた墜落地点名は「長野県側の扇平(せんぺい)山」や「御座(おぐら)山」だった。それがいつから御巣鷹山になったのか。

御座山登山口(撮影:小平尚典)

事故後、地元の上野村村長がJAL123便の墜落した場所を『御巣鷹の尾根』と正式に命名したのだ。実は墜落地点の尾根は、御巣鷹山には少しも繋がっていないのではないだろうか。御巣鷹の尾根から、僕たちのスキルでは御巣鷹山がどこにあるかわからなかった。

上野村に行く道が閉鎖されていた(撮影:小平尚典)

地図上では1639メートルの御巣鷹山は存在するが、写真でもおわかりのように小さな突起程度で山の形を成していない。もしかすると墜落現場は地名として高天原山が正しいかもしれない。

「御巣鷹の尾根」展望台(撮影:小平尚典)
「御巣鷹の尾根」展望台からの眺め(撮影:小平尚典)

今回、36年前の僕の足跡をたどり、現場を再検証するために使ったドローンは、元々は軍事技術から発展したもので、今でも爆弾やミサイルを積んで戦争用の武器になっている。

しかし近年、空撮や農業、林業、物流など生活をゆたかにするための道具として活用され周知されてきている。今後は人命救助などより平和利用にシフトすることを切望する。

ライト兄弟が飛行機に夢と希望を託したが、人類はその後に爆弾を積んで多くの人を殺した。この近代文明の過ちこそが、御巣鷹山の鎮魂ではないだろうか? この「決して忘れてはいけない事実」は永遠に語り続けていかなければならないと確信した36年目の夏だった。

最後に当時の写真を残しておきたい。

(外部配信先では写真を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でご覧ください)

【2021年8月10日14時40分追記】初出時、写真キャプションの一部に間違いがありましたので修正しました。

小平 尚典 報道写真家

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こひら なおのり / Naonori Kohira

1954年北九州市小倉北区生まれ。 日本大学芸術学部写真学科卒業後渡英し社会派写真家としてデビュー。新潮社『FOCUS』創刊メンバー、御巣鷹山JAL墜落事故写真集「4/524」を新潮社から出版。1987年から米国西海岸に移住。ロングインパクトのIT革命の時代を担うPCビジョナリーを取材。ビル・ゲイツやジョブスらを中心に新しく生まれたイノベーションを多目的に検証し、「Silicon Road」「e-face」を制作。2021年スタンフォード大学ライブラリーに全写真作品がセレクトされた。現在は東京在住。公益社団法人日本写真家協会会員、早稲田大学理工学部非常勤講師。(http://nkohira.shopdb.jp/profile.html

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