個人主義の仏国民も実は「世間体」気にする深い訳 「人よりユニーク」を打ち出すことがストレスに
フランスは今、マクロン政権が打ち出した新型コロナウイルス対策への抗議デモが続いている。新方針は医療・介護従事者へのワクチン義務化と、ワクチン接種完了者に発行される健康パスの適用範囲拡大の2本立てだ。
とくに「健康パスの適用範囲拡大」では、飲食店などを利用する際に、健康パスの提示を求められるようになったことから、自由を好む人たちが先鋭化。さらに反政府運動「黄色いベスト」の常連なども多く参加している。彼ら彼女らは今後、店舗への襲撃やバス停放火など過激化することも予想される。
ただし、ワクチン接種会場に人が殺到しているという事実もある。理由は夏の長期バカンス先などで、レストランやカフェに健康パスがないと入れないからだ。バカンスを楽しんでいるフランス人から見れば、抗議デモに参加する人々に対しては「ご苦労様だね」という思いがある一方、抗議デモに参加している側は、まるで政府の方針に反対しない選択肢がないという構えで「諦めない」という構図だ。
個人の自由と権利を主張するフランス人は幸せ?
フランス人の「ノン(いいえ)」の態度は奥深いものがある。フランスの抗議デモのスタイルは欧州でも特異で、命がけで絶対王政を終わらせ、権力者や既得権者を引きずり降ろし、処刑もした国の伝統ともいえる。
BBCなどイギリスのメディアは頻繁に起きるフランスの激しい抗議デモについて「イギリスでは見ない光景だ」「フランスの風物詩」などと揶揄している。警察官や消防士もデモやストライキを行うフランスでは、権力に対しては、何でも闘って勝ち取らなければならないという観念が強く、「黙っていたら損をする」という考えがほかの欧州諸国より強い。
フランスの差別や権力による抑圧、とくにサービス精神の皆無な役人たちの傲慢な仕事ぶりは欧州内でも有名だ。2015年に100万人を超える難民・移民がシリアやイラクから欧州に押し寄せたときも、彼ら彼女らのほとんどがフランスを希望しなかった。難民申請審査が極端に遅いことや差別があることが知れ渡っていたからだ。
では、個人の自由と権利を主張するフランス人は、はたして幸せなのだろうか。日本ではフランスは個人の自由と人権が大切にされる国とのイメージが強いのだが、実は大革命で勝ち取ったはずの自由や権利が彼らを苦しめてきたという話は、あまり知られていない。
バカンスやワークライフバランスの追求、抗議デモで不満を爆発させる陰で、フランス人の多くはストレスに苦しんでいる。
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