個人主義の仏国民も実は「世間体」気にする深い訳

「人よりユニーク」を打ち出すことがストレスに

一方、抗議デモに参加するのも社会正義追求に関与しているとか、政府に反対することが自分の価値を高めると考えるフランス人も少なくない。BBCはウェブサイトに「フランス人が“ノン”と言いたがる理由」というコラムを掲載し、「フランス人は抗議する人間であり、抗議はつねに“ノン”で始まることを忘れてはならない」と指摘し、それは革命で身についた習性だと説明している。

本当は「はい、そうです」と言いたいときも「ノン」のフレーズで会話を始めることは確かに多い。テレビ討論やビジネスの会議でも「〇〇さんが言う通り」などとは決して言わず、まず、相手の言う事を否定することで、人に対して優位性やユニークさを確保しようとする習性がある。つまり、抗議することで自分の価値を表すという動機もあるという事だ。

世間体というのは日本人だけかと思ったら、実はフランス人もけっこう世間体を気にしている。個人の自由と権利の追求、社会への連帯を示す大革命の伝統は、それらが欠落しているために追求する途上にあることは忘れがちだ。フランス人は、その理想と現実のギャップのために苦しみ、ストレスをため込み、なんとかそのストレスを解消するために長期バカンスに出かけているともいえる。

「バカンスに行かない自由」がない矛盾

ある働くことが好きなフランス人は「バカンスに行かない自由がないのは矛盾だ」「もっと働きたいのに労働時間が制限され、収入も自由に得られないのもおかしい」という。音楽業界出身の作家ステファン・ガルニエ氏が2017年に著してベストセラーになった『猫はためらわずにノンと言う』では、フランス人はもっと猫のようなリラックスした自然体の生き方が必要だと指摘している。

「自由に考え、自由に行動する」というのが、この本の提案だが、「え、フランス人はすでにそれを実践しているのではなかったのか」と思う意外性が話題になった。権力=自分から自由を奪う存在という意識が強すぎて、何に対しても最初に本能的に「ノン」と言うが、それは自己主張というより自己保身かもしれない。ところが保身も疲れる。猫は動物としての本能的保身と最大限自分を満足させ、リラックスさせる組み合わせが実に上手なことをガルニエ氏は指摘する。

個人主義の国というが、個人主義がステータスと思い込み、努めて個人主義的にふるまっているフシもある。ガルニエ氏が日本に滞在したときに感動したのは、人間関係で対立が起きないように、自己主張や自慢話をせず、うまく立ち回ることで人間関係から生じるストレスを最小限に抑えていると映ったことだった。それに比べれば見栄を張ってエステで肌を焼き、自慢話で逆に相手の嫉妬心をあおるのは愚かともいえる。

フランス人の高い理想と本音とのギャップ、堂々と自己主張することを迫られることでストレスを感じ、「個人主義もつらい」と本音では思っているのかもしれない。ただ、ガルニエ氏が感動したという日本人は、対立や相手に嫉妬を起こさせないために自己主張や自己アピールを避け、気配りし過ぎてストレスをためている現実もある。

何でも「イエス」と言いながら本音を言えずにストレスをためる日本人、真意ではないのに「ノン」と言ってしまうフランス人に欠けているのは、「正直さ」なのかもしれない。

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