東京五輪の開催に対する受け止めに変化の兆し 淡々と活躍する選手の姿が国民の心を捉えた
国内で新型コロナウイルス感染者の増加に歯止めがかからない中、東京五輪の開催に対する受け止めに変化の兆しが出ている。背景にあるのは、連日の日本選手のメダルラッシュだ。
日本は30日までに五輪競技で金メダルを15個獲得し、中国に次ぐ2位につけている。新種目のスケートボード(ストリート)は男女とも優勝を飾り、柔道は阿部兄妹の快挙を含め金メダル8個、体操の男子個人総合では橋本大輝選手が初めての五輪で金を手にした。
東京都の感染者数は、29日に3865人となり3日連続で過去最高を更新するなど、拡大ペースは依然として深刻だ。だが、ソーシャルメディアの投稿を分析すると、五輪への否定的な声に比べて、テレビやスマホの画面越しに応援する日本選手への肯定的なコメントが増えてきているのがわかる。
開幕以降、ツイッター上では「五輪中止」を叫ぶ声以外に、選手のメダル獲得を喜ぶツイート、開会式当日に東京の空を彩った航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」によるパフォーマンス、そして開会式当日の花火などの投稿が目立つ。
日本テレビとJX通信社の分析によると、ツイッター上では感染拡大を懸念してネガティブなコメントが依然として大半を占めるが、開会式前日の22日に3割未満だったポジティブなコメントは、27日までに4割を超えた。
また、共同通信によると、国際オリンピック委員会(IOC)などが日本語を含む9カ国語で展開する公式サイトやアプリを通じたデータ通信量は、2016年のリオデジャネイロ五輪の2倍に達している。中でも日本や米国、インドからのアクセスが多いという。
開幕後の週明け26日午後、お台場にある大会ロゴが入ったTシャツなどの五輪公式グッズを販売する店舗は平日にもかかわらずにぎわいを見せていた。
親戚や家族へのお土産にキーホルダーなどを購入したという都内在住の武内幹夫さん(44)は、「どちらかというと五輪心配派だったが、始まってみたら逆にこれがなかったら寂しかったかもしれない」と心境の変化を口にした。
武内さんはスケートボードや体操などをテレビ観戦したという。3歳になる娘が大きくなった時に、キーホルダーを見せながら東京大会の思い出を伝えたいと話した。
二つの考え
選手を応援したい気持ちと感染拡大への懸念が共存しているとの見方もある。開催前に代々木公園でのパブリックビューイングサイト建設中止をネットで訴えた日本在住の経営コンサルタント、ロッシェル・カップ氏は「二つの考えは矛盾しない」と電話取材で述べた。
奈良女子大学の石坂友司准教授(スポーツ社会学)は、国民感情は開幕前と大きく変わっていないと指摘する。コロナ禍での五輪開催に否定的だった人は「いまだに開催するべきではないと思っているし、今からでも間に合うのであれば中止するべきだと思っている」という。
ただ、五輪に肯定的な意見を公言しやすくなったことは大きな変化だという。これまでは、コロナ禍での五輪をポジティブに考えられない状況があったため、選手を応援したいという気持ちを表に出しづらい雰囲気だった。しかし、過剰にはしゃぐことなく淡々と活躍する選手たちの姿が多くの人の心を捉えていると説明した。
(識者のコメントを追加して記事を更新します)
More stories like this are available on bloomberg.com
著者:黄恂恂、Max Zimmerman
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら