社会の不平等を軽視する人は弊害をわかってない 幸福感低下や経済不安定化、環境破壊などにも

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社会活動家は世界中で、企業や政府に対して、生活できる賃金を払うよう圧力を強めている。例えば、アジア各国で衣料品産業の労働者の生活賃金を求めるアジア最低賃金同盟などがそうだ。

あるいは、最高賃金の制定を求める声も上がっている。重役の報酬額を減らして、企業の利益がもっと平等に従業員に行きわたるよう、最高賃金を社内のもっとも低い賃金の20倍から50倍以内にせよという要求だ。

一部の政府は就業保障を始めている。例えばインドには、地方部の全世帯に対して、毎年、100日間の最低賃金による雇用を保障する制度がある。またオーストラリアや米国、南アフリカ、スロヴェニアなどの国々では、職に就いていてもいなくても、すべての人が生活に必要な収入を得られるよう、ベーシックインカムの導入を求める声が市民のあいだから上がっている。

分断経済を分配経済に転換する

以上のような再分配政策はその恩恵に与る人には、人生を一変させるような効果をもたらす。しかしこれらの政策だけでは経済的な不平等の根は絶てない。所得に重点を置いていて、所得を生み出す富についてはまだ手つかずだからだ。不平等を根本的に解消するためには、富の所有権の民主化が必要だと、歴史学者で経済学者のガー・アルペロヴィッツは唱える。なぜなら「政治経済のシステムは主に、資産の所有と支配のされかたによって決まる」からだ。

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したがって、所得の再分配に加えて、富の源の再分配にも経済学者の関心を向けなくてはならない。今世紀には分配的な設計によって、富の所有権の構造を大きく変える未曾有のチャンスがある。なかでも注目すべきは、土地、貨幣創造、企業、技術、知識という5つの富の所有のありかたを変革するチャンスだ。

それらのチャンスのなかには、国家主導の改革に頼るものもある。その場合には、長期的な変化の過程の一部と見なさなくてはいけないだろう。しかし、一般の人々の草の根運動で始められるもの、したがって今すぐに着手できるものもある。もちろん、すでにスタートしている試みも多い。それらの革新的な取り組みは、富のダイナミクスを根本的に変えることで、分断経済を分配経済に転換し、ひいては貧困と不平等の両方を減らすことができる。

ケイト・ラワース 経済学者

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Kate Raworth

オックスフォード大学環境変動研究所の講師兼上級客員研究員。またケンブリッジ大学持続可能性リーダーシップ研究所の上級客員研究員。シューマッハー・カレッジで移行計画のための経済学を教える。

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