社会の不平等を軽視する人は弊害をわかってない 幸福感低下や経済不安定化、環境破壊などにも

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コスタリカの家庭の水道使用量とアメリカの家庭のエネルギー使用量を調べた研究によると、自分たちを仲間どうしだと考えているコミュニティではそうではないコミュニティに比べて、コミュニティの規範に従って、使用量を減らすよう求める社会的なプレッシャーがはるかに強いという。

またアメリカ全50州を対象にした調査では、勢力──所得と人種にもとづく──の不平等が顕著な州ほど、環境対策が貧弱で、環境破壊が進んでいるという結果が出ている。さらには、不平等な国ほど、生物多様性が危機に瀕しやすいという、50カ国で実施された調査の結果もある。

資産が一握りの人々に集中すれば、経済の安定性も損なわれる。そのことは2008年の金融危機で明らかになったとおりだ。高所得者が低所得者たちの身の丈を超えた住宅ローンの債券の束だとは知らずに、高リスクの資産に手を出したことで、システムはもろくなり、金融崩壊が発生した。IMFの経済学者マイケル・カムホフとロマン・ランシエールが、金融崩壊前の25年間を分析した結果、不気味なほど、1929年の大恐慌前の25年間と似ていることがわかった。どちらの期間にも、富裕層の所得シェアの著しい増大があり、金融部門の急成長があり、それ以外の層の負債の著しい増大があった。そしてそれらがやがて金融と社会の危機を招いていた。

所得の格差は必要悪なのか?

したがって、所得格差がさまざまな悪影響を及ぼすことはもはや明白だ。低所得国では、かつては、経済成長を加速させるためには不平等が欠かせず、所得の格差はそのための必要悪だと見なされていたが、その神話もくつがえされた。開発経済学で説かれていることとはちがい、不平等の効果で経済成長が速まることはない。むしろ鈍ってしまう。なぜなら、多くの人の潜在的な能力がむだにされるからだ。

教師や、市場のトレーダーや、看護師や、実業家になって、コミュニティの富と福祉に積極的に貢献できたはずの人が、ただ家族のぎりぎりの生活を維持するためだけに必死で働かなくてはならない。最貧困層の家族がお金がなくて生活の必需品を買えなければ、最貧困層の労働者はそれらの必需品を提供する仕事を失い、市場の活性化をもっとも必要とする人たちのあいだで市場が停滞する。

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