社会の不平等を軽視する人は弊害をわかってない 幸福感低下や経済不安定化、環境破壊などにも

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このような直感的な推測が正しいことは、データの分析によっても裏づけられている。さまざまな国々で不平等がGDPの成長を妨げていることは、IMFの経済学者たちの調査ですでに証明済みだ。

調査を指揮した経済学者ジョナサン・オストリーは次のように述べている。「不平等な社会ほど、経済成長は遅く、脆弱だ。経済成長に重点を置き、不平等の問題は成り行きにまかせていいと考えるのはまちがっている」。これはきわめて重要なメッセージだ。とりわけ低・中所得国の政策立案者は真剣に耳を傾ける必要がある。「痛みなくして、得るものなし」という従来の経済学の迷信もはっきりと否定されている。

所得の再分配と富の再分配

20世紀の後半に実施されてきた国内の再分配政策は、大きく3つに分類できる。累進所得税と所得移転、最低賃金などの労働市場の保護、それに医療や教育や公営住宅などの公共サービスの提供の3つだ。1980年代からは3つとも、新自由主義の脚本を書く者たちの抵抗を受けるようになった。

所得税を引き上げたら、高賃金労働者の労働意欲を低下させるのではないか、生活保護費を増やしたら、低賃金労働者たちの働く気持ちを奪い去るのではないかと、はげしい議論が持ち上がった。最低賃金と労働組合は最貧困層の労働者を保護するものとしてではなく、それらの労働者の雇用を阻むものとして語られるようになった。

さらには、国家が国民に質の高い教育や、皆保険、手ごろな価格の住宅を提供する役割も、許容できない大きな支出をもたらすものとして、あるいは国民の依存心を強めるものとして、話題にされることがしだいに増えていった。

しかし21世紀に入ると、不平等の拡大に対する人々の怒りが世界的に噴出し、再分配を強化しようという気運がふたたび高まってきた。高所得国の多くの主流派経済学者は今、最高限界税率の引き上げや、利子や賃料や配当への課税額の引き上げを主張している。

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