社会の不平等を軽視する人は弊害をわかってない 幸福感低下や経済不安定化、環境破壊などにも

拡大
縮小

社会は所得の不平等によって著しく損なわれうる。2009年に『平等社会』を著した疫学者リチャード・ウィルキンソンとケイト・ピケットは、さまざまな高所得国の実態を調べて、社会の幸福を何より左右するのは、国の富ではなく、国内の不平等であることを発見した。

その調査によると、不平等な国ほど、10代の妊娠、精神疾患、ドラッグの使用、肥満、囚人、退学、地域社会の崩壊が多く、寿命が短く、女性の地位が低く、相互の信頼の度合いが低かったという。

「不平等の影響は貧しい人たちだけに及ぶわけではない。社会構造全体がダメージを被る」と2人は結論づけた。平等な社会ほど、社会が富んでいても貧しくても、健全で、幸せであることを2人の調査は明らかにしている。

民主主義もやはり、不平等によって危機にさらされる。不平等は権力を少数に集中させ、市場を政治の強い影響下に置くからだ。おそらく今、その傾向がもっともはっきり見られるのは、2015年現在、ビリオネアが500人以上いるアメリカだろう。

「最近、ビリオネアたちがかつてなかったほど積極的に選挙に影響力を行使しようとしている」と、政治アナリスト、ダレル・ウェストは指摘する。アメリカの大富豪たちの振る舞いを研究しているウェストによると、「彼らは何千万ドル、何億ドルという資金を投じて、党利党略を追求している。たいていは公衆の目からは隠れたところで」という。元副大統領アル・ゴアも同意見で、「アメリカの民主主義は選挙資金という斧で、ずたずたにされている」と指摘する。

不平等な社会ほど環境破壊が進む

不平等の程度が大きい国では、環境破壊が進みやすい傾向が見られることもわかっている。なぜか? 1つには、社会的な不平等はステータスの競争や見せびらかしの消費に人々を駆り立てるからだ。「もっとも多くのおもちゃを抱えて死んだ者が勝者だ」などという冗談めかしたアメリカのバンパーステッカーにそのことはよく示されている。

しかしまた、環境を守る法律を求め、制定し、施行するためには集団行動が欠かせないが、不平等はそういう集団行動を支える社会資本──コミュニティの結びつき、信頼、規範によって築かれるもの──を侵害するからでもある。

次ページ資産が一握りの人々に集中すると?
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT