河瀬監督、「日本文化を売り出す人が少ない」

国際映画祭の常連・河瀬直美監督に聞く

(C)2014“FUTATSUME NO MADO”JFP, CDC, ARTE FC, LM.

――映画人はどうしても東京を拠点にすることが多いですが、それに対して河瀬さんは奈良を拠点にしているところがユニークだと思います。奈良を拠点に活動する利点についてお聞きしたいのですが。

まずは自分の気持ちを整理できる時間が持てるということ。東京にいると、サイクルが早くて疲れてしまうことも多いですが、奈良では、早起きをして、畑に出る、といったサイクルの中で、自分を冷静に見つめ直すことができます。

――仕事のスタイルとしてはどのような感じで行われるのでしょうか? たとえばメールやFAXでやり取りをすることが中心になるのでしょうか?

主にメールです。うちはスタッフが奈良に4人いて、宿泊できる映像の編集室を持っています。今回の映画でも、フランス人の編集者(ティナ・バズ)は、1カ月、奈良に滞在して作業をしていました。音に関しては、うちのスタジオでは機材がそろわないため、大阪まで行きました。

奈良から車で40分ぐらいで行けますからね。大阪で仕込んだものをチェックして、それからパリに行って、最後のミックスを行い、完成させました。パリでサウンドの最後のミックスをやってるときに、私がどうしてもこの音が欲しいなと思ったので、日本に連絡して、それを録音してもらい、そのまま音声データをパリに送ってもらったこともありました。今はそういうことができるので便利ですよね。

いいものを作って発信できれば都会ともつながる

――本当は故郷で仕事をしたいんだけど、東京でなければ仕事ができないのではないかと思っている人もいるのではないかと思います。河瀬さんが思う、故郷で仕事をすることのメリットについてお聞きしたいのですが。

本当にいいものを作っていて、それを発信する術さえ持っていれば、確実に都会ともつながれます。今はネット環境も整ってきているので、たとえばものづくりの世界であれば、十分に活動できると思います。つい先日も、大阪で活動をしていたデザイナーさんが、奈良の黒滝村というところに移り住んできました。さっそく「なら国際映画祭」のデザインをお願いしたのですが、すごくいい仕事をしてくれました。

吉野では(伝統工芸である)和紙を使う文化がどんどん廃れていき、後継者がいなくなってきている現状があります。そんな現状の中で、彼らはその和紙を手に入れて、それをデザインに活用しています。そういった地元の伝統工芸と新しい自分たちのアイデアを融合させて、それを発信しようとしたわけです。だから(人材が)渇望している場所に行ったほうが、絶対に自分のやりがいは増えると思いますね。ただし、たとえば男の人だったら、嫁さんは連れていかないとダメかもしれません。村に(若い女性が)いないから、とは言っていました。

とはいえ、村の人はきちんと受け止めてくれると思います。むしろ重宝してもらえるのではないでしょうか。おカネがないということが心配かもしれませんが、それでも物価が極端に低いですからね。近所のおじちゃん、おばちゃんが野菜をくれたりもしますし、家もすごく安いのに広い。ネットの環境がよければ、自分を十分に試せる場所だと思います。

――奈良にいながら、世界に開かれているのが面白いですね。

そうですね。「なら国際映画祭」に来る外国の人も、初めての日本が奈良だという人が多い。一般的には東京、京都が有名だと思うのですが、奈良がすごく好きだと言ってくれる人もいます。

闇の中でろうそくを使った光のイベントを行ったり、世界遺産のお寺で上映会をしたりといったユニークな映像体験ができます。海外の人が1人でも2人でも確実に奈良のいいものを持って帰ってもらえば、そのうわさは必ずその人たちが広げてくれる。年々、ちょっとずつ興味を持ってくれる人も増えてきていて、「うちの映画を上映してくれ」と言われることも多くなってきました。やはりコツコツと続けていくほうが長く続くと思う。ひとつずつ積み重ねていけば、それこそやりがいもあるし。やりがいは自分を高めますね。

私の会社にも東京から引っ越してくる子が何人かいます。むしろ奈良で生まれてうちの会社にいる子のほうが少ないかもしれない。生活することが可能なら、あとはやりがいや気持ちがあればできると思います。

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