米中「軍事衝突」最悪シナリオが無益でしかない訳 あらかじめ危険性を認識して行動することが重要

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もしアメリカか日本が台湾を防衛することに決めた場合、その衝突の結果はどのようなものになるのだろう? さらには、もし米日が台湾を巡る局地的な戦いに敗北しそうになるとしたら、両国は敗北を認めるだろうか? それとも、さらに衝突を拡大させるだろうか? その場合、一体どの時点で衝突は終わりを迎えるだろうか?

こうした可能性について、米中両政府の間での議論がますます活発になるだろう。上に挙げた問いのいずれに対しても、良い答えはいっさい無い。

だからこそ、衝突と対立を招き、結果として破滅的な戦争を引き起こしうる危機的状況を回避するために、両陣営があらかじめ危険性を認識し、行動することが重要だ。

『米中戦争前夜』では、上のような問いに対して次のように答えている。「本当に状況が悪化する前に予期せよ」と。2017年に出版してからの4年間で、間違いなく状況は悪化してしまった。

米中は切っても切れないパートナー

――米中の指導者らは冷静に行動できるでしょうか。

新たにアメリカ大統領となったバイデン氏は、中国やトゥキディデスの罠について深く考えている人物だ。米中両国の賢明な政治家たちは、タガの外れた競争によってもたらされるリスクについて真剣に考えている。バイデン政権は中国がライバルであると同時に、切っても切れない関係のパートナーなのだと認識した上で、こうした課題をどう捉えればいいかを模索している。

中国の発展により覇権国であるアメリカが築き上げたトップの地位が脅かされるなら、中国は間違いなく恐ろしいライバルとなるだろう。一方で、(世界が抱える)核兵器や気候変動という問題においては、この小さな地球上に共存せざるをえないという現実がある以上、中国は切っても切れないパートナーとなる。

――米中関係の今後の見通しを教えてください。

米中両国の指導者たちにとって、1962年のキューバ危機という有史以来最も危険な局面を回避した、ジョン・F・ケネディ大統領が得た洞察がヒントになる。当時、ケネディ大統領とフルシチョフ首相は面と向き合って会談に臨んだ(ウィーン会談)。その会談の結果次第では3分の1の確率で核戦争が起こり、何億人もの命が犠牲になったかもしれないと大統領は考え、より良い未来を得る方法を真剣に検討し始めた。

暗殺の直前にケネディ大統領は、自身の政治家生命において極めて重要なスピーチをした。アメリカはソ連との関係において、「相違があったとしても平和な世界」を構築することを目的とするべきだと提案した。最大の敵であるソ連に対して何を求めるのか、アメリカ自身の考えを改めることをも意味していた。

アメリカがソ連を葬り去ろうと試みるよりも、少なくとも当面の間、アメリカとソ連はこの世界で共存していくべきなのだと。たとえ両国の異なる政治システムが、正面から対立する価値観やイデオロギーを抱えているとしてもだ。そのような未来が選ばれたからこそ、アメリカとソ連は激しくも、あくまで平和的に競い合うことができた。

もしアメリカと中国が似たような形で21世紀を歩むことができるなら、第2次世界大戦後から70年を超えて続いてきた長い平和な期間が、少なくとも100年まで延びるだろう。

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林 哲矢 東洋経済 記者

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はやし てつや / Tetsuya Hayashi

日本経済新聞の記者を経て、ハーバード大学(ケネディスクール)で修士号。『週刊東洋経済』副編集長の後、『米国会社四季報』編集長。

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