光浦靖子「エッセイスト」としても超一流な理由 文章の世界でも輝く彼女の「自分イジリ」の才能

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さらに光浦さんはこんな風に続ける。

「マジでやばい! リアル緊急事態なはずなのに、不思議と心は穏やかです。コロナで留学もできず今は生殺し状態なのに、行動を起こさなくても、決心するだけで心境は変化するようです。相変わらず、金のかからない女です」(以上「文藝春秋」2020年 月号「巻頭随筆」より)

パートナーがいない。子どももいない。誰にも必要とされていない。一見辛そうに見えるが、じつは身軽であるということはとても魅力だ。好きなところにいつでも行っていい。好きなことをやっていい。こんな幸せなことはないはず。

彼女には、客観的に自分自身を見る力がある。これは生きるうえで大きな武器だ。自分をおちょくれるってすごい才能だ。他人をイジるのが上手くても自分がイジられると逆上する人が多い。

「自分イジり」の天才

光浦さんは自分で自分をイジっている。しかもそのイジり方が見事だ。光浦さんの文を読んでいて、ここは私も似ていると思うところがある人も多いのではないだろうか。

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誰にも必要とされないと自ら言える光浦さんが、どんな風にこれからの50代を生き抜いていくかとても楽しみで目が離せない。そんな人が徐々に多くなっていくのではないだろうか。

そんな光浦さんにこそ、二十数年いまだかつてないブレイクがやってくる可能性もあるように思う。もちろん、何でもアリ。誰よりも身軽なんだから、好きなようにすればいいのだ。

たこ糸の切れた凧が中年の輝く星になることだってあるってことを、彼女は目に物を見せることができるような気がする。ものすごく楽しみだ。

鎌田 實 医者・作家

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かまた みのる / Minoru Kamata

1948年東京生まれ。医師・作家。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任、以来40年以上にわたって地域医療に携わる。現在、諏訪中央病院名誉院長。日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本・イラク・メディカルネット代表として、被災地支援にも精力的に取り組んでいる。2006年、読売国際協力賞、 2011年、日本放送協会放送文化賞を受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社)をはじめ著書多数。近著に『相手の身になる練習』(小学館)、『70歳、医師の僕がたどり着いた 鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』(集英社)などがある。

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