「同質集団」CIAによって見逃された9.11の兆候 当時CIA職員は高い割合で中流階級出身だった
9.11の全容はこれまで何度もドラマ化されているが、その多くはまた別の要因を指摘している。ライバル意識からくる情報機関同士のコミュニケーション不足だ。たしかにそうした危ない局面は多々あった。中でも2001年5月に開かれたCIAとFBIの合同会議では、CIAがハリード・アル=ミンザール(アメリカン航空77便をハイジャックした5人の実行犯の1人)に関する情報提供を拒否している。識者の中には、CIAがその情報を共有していれば、FBIはアルカイダの工作員がすでに米国内に入っていたことを察知できていたかもしれないと指摘する者もいる。
もちろんこのような事実を軽視することはできないし、まだほかにもいくつか問題点が指摘されているが、それらが9.11を未然に防げなかった失敗の本質だと考えるのは間違いだ。根本的な原因は、何十年もずっと目に見えるところにあった。
CIA諜報部門の元副部門長、カーメン・メディナがずっと後になって指摘したとおりだ。2017年のインタビューで彼女はこう発言している。
「(CIAに多様性が欠如していたとは)皮肉なものです。異なる意見を効果的に取り入れるべき組織の筆頭が、インテリジェンス・コミュニティーなのですから」
CIAの根底にある「盲点」
これは悲劇と言うほかないだろう。マイロ・ジョーンズは、CIAの歴史を振り返れば9.11以前にも同様の失敗が繰り返されていたことがわかるという。キューバ危機やイラン革命はその典型だろう。旧ソ連の崩壊を予見できなかったのもそうだ。
「どの1件における失敗も、元をたどれば、CIAの根底にある同じ盲点に議論の余地がないほどまっすぐに突き当たります」と、ジョーンズは私とロンドンで会ったときに話してくれた。情報機関を批判する意見と擁護する意見とが今なおぶつかり合い続けているのは、こうした根本的な原因を見過ごしているからだ。批判派は「(後知恵で)脅威は明らかだった」と主張し、擁護派は「CIAの人材は極めて優秀であり、脅威は明らかではなかった」と譲らない。
ただここで個々の分析官を責めるべきでないのはたしかだ。彼らは怠けていたわけではない。もちろん仕事中にうたた寝をしていたわけでもないし、とにかく職務怠慢と通常言われるような勤務態度ではなかった。知識が足りなかったわけでもなければ、愛国心や職業倫理が欠けていたわけでもない。実際、分析官1人ひとりに欠けているものは何もなかったとさえ言えるだろう。しかし集団で考えた場合、話は別になる。
CIAの職員は個人個人で見れば高い洞察力を備えているが、集団で見ると盲目だ。そしてこのパラドックスの中にこそ、多様性の大切さが浮かび上がってくる。
(次回は約1週間後に配信予定です)
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