中国「寝そべりの達人」が手に入れた理想の生活 若者に広がる新たな生き方に当局が抱える不安
ニューヨーク・タイムズが入手したある指示文書によると、中国のインターネット規制当局は5月、各種SNSサイトに「寝そべり」に関する新たな投稿を「厳しく制限」するよう命じた。各種ネット通販サイトに向けられたもう1つの指示文書は、服やスマートフォンケースなど「寝そべり」をモチーフにした商品の取り扱い停止を命じる内容になっている。
国営メディアは「寝そべり」を「恥」と呼び、ある新聞は「豊かになる前に寝そべる」行為を批判した。著名な億万長者、兪敏洪氏は若者に寝そべらないようにと訴えかけた。そんなことをされたら、「わが国の将来を頼れる人間がいなくなってしまう」というわけだ。
駱さんが4月に「寝そべり」についてブログに書くことにしたのは、最新の国勢調査結果について世の中の議論が熱を帯びるようになっていたことがきっかけだ。少子高齢化が迫る中、国に出産人数を増やすよう求める声が高まっていた。
「スローなライフスタイルを選ぶ権利がある」
駱さんは「寝そべり」ブームを引き起こした自身の投稿を、「社会の底辺で暮らす1人の男の内なる独白」と呼んだ。
「『寝そべりは恥』と言う人間こそ恥知らずだ。僕にはスローなライフスタイルを選ぶ権利がある。社会に対して有害なことは何もしていない。僕らはブラックな職場で1日に12時間も働かなければいけないのか。それが正義なのか」(駱さん)
駱さんは中国東部・浙江省にある建徳市という田舎の生まれだ。2007年に職業高校を中退し、工場で働き始めた。タイヤ工場で1日12時間シフトの仕事に就いていたこともある。1日の仕事が終わるころには足全体がマメだらけになったという。
2014年に見つけた製品検査員の仕事も気に入らず、2年で辞めた。その後は、ときおり単発の俳優仕事を引き受けて生計を立てていた(2018年には中国のある映画で死体役を演じたこともある。もちろん、寝そべって、だ)。
今は家族と同居し、哲学書を読んだり、ニュースを見たり、運動したりして毎日を過ごしている。ミニマルに暮らし、「自由に考え、表現する」ことのできる、まさに理想のライフスタイルだという。フォロワーから「寝そべりの達人」と呼ばれるようになった彼は、フォロワーにも同じ道を選ぶように促している。
(執筆:Elsie Chen記者)
(C)2021 The New York Times News Services
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