「小顔だと死へ直結」サンショウウオの超怖い生態 実は過酷な生存競争を勝ち抜くためのシステム

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でも、なぜ共食いなどするのだろう? おとなしく、草とか食べてちゃだめなのか?

(画像提供:KADOKAWA)

サンショウウオで共食いされるのは、小さく、弱いものだ。弱きをたすけ、強きをくじけ、このワルめ!と言いたくなってくる。だが、人間界でいじめっ子がのさばるのとはまったくわけがちがう。それとこれとは話が別だ。

カマキリ、チンパンジー、サメ、クモなど、実にさまざまな生き物が共食いをする。平和そうな、オタマジャクシの中にも、「デカ頭」の攻撃型に変身して、共食いをする種類のものがいる。共食いは、単なる攻撃ではない。いかなる状況になっても、生きのこり、子孫をのこそうとする、自然の天才的な仕組みだ。

サンショウウオの子どもは、池が干あがる危険と、となり合わせで生きている。池が干あがる前に、大きくなって陸に上がらねば、自分も日干しになってしまう。それを避けるには、栄養をたくさんとり、早く成長しなければならない。そこで、攻撃型に変身したものが、小さいものを食べる。同じ仲間の体は、高栄養食だ。それを食べて誰かが生きのこらないと、全滅だ。共食いしないと、共倒れなのだ。

エサとなるオタマジャクシも「デカ頭」に変身

北海道にすむ、エゾサンショウウオの幼生も、頭がでかくなることで知られる。だが、その理由は必ずしも共食いのためだけではないのだという。この興味深い事実は、北海道大学の研究者によって発表された。

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エゾサンショウウオの子どもは、エサとなるオタマジャクシをより食べやすい形に、頭がでかくなるというのである。つまり、相手を攻撃しやすい形に変身するのだ。

しかしオタマジャクシもだまってはいない。それに対抗して、オタマジャクシのほうも、「デカ頭」に変身するのだという。

頭がでかくなれば、オタマジャクシはサンショウウオに、丸のみにされない。サンショウウオと、オタマジャクシの、頭でか抗争。サンショウウオが天才なら、オタマジャクシも天才、さらにはこんな発見自体も天才的だ。

北海道の春。山あいの雪どけ水に、陽の光がきらめいている。しずかな光景だ。だが池の中では、オタマジャクシとサンショウウオが、たがいに頭をでかくするという奇妙な戦いが、無言でくりひろげられているのである。

(画像提供:KADOKAWA)
早川 いくを 著作家

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はやかわ いくを / Ikuo Hayakawa

1965年東京都出身。多摩美術大学卒業。「へんないきもの」シリーズがベストセラーとなり本格的な作家活動に入る。著書に『うんこがへんないきもの』(KADOKAWA)、『怖いへんないきものの絵』(幻冬舎)など

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