ヨーロッパに「夜行列車黄金時代」はやってくるか 衰退一転し復活の動き続々、新規参入会社も

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一方で、旧国鉄系の鉄道会社による動きも進んでいる。2020年12月、ドイツ・スイス・フランス・オーストリアの各国鉄道は、ヨーロッパにおける新たな夜行列車サービスの開始に向けて合意。ドイツが提案した「トランスヨーロッパエクスプレス(TEE)2.0ネットワーク」を構築する第一歩となった。

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この4社の契約では、まず今後数年の間に13都市へ向け、夜行列車4路線を開設することを約束している。

その中には、10年以上前に廃止されたウィーン―パリ間や、廃止に抗議してデモ行動まで起きたチューリッヒ―アムステルダム間の復活も明記されている。

「黄金時代」へはまだまだ課題

さまざまな追い風を受けて順風満帆のように見える夜行列車。だが問題点もまだ多く、改善が必要となっている。

車体側面に3言語で「寝台車」と表示したチェコ鉄道の客車。夜行列車のさらなる拡大には車内のプライバシーや快適性が重要だ(筆者撮影)

オーストリア鉄道は、プライバシーの欠如こそが夜行列車の問題点の1つだと認識している。実際、価格が高いにもかかわらず最初に売り切れとなるのはたいてい個室の普通寝台で、それだけ乗客はプライバシーを重視していることを示している。そこで、現在開発中の新型車両は低料金の簡易寝台クシェットにもパーテーションを設け、よりプライベート空間を重視した設計とした。また、前述のスネールトーグは快適性を高めるため、クシェットでも普通寝台と同等の寝具を提供している。

サービス面だけではなく、運営上の問題点も課題として残る。夜行列車は運行コストが高くなるため、運賃収入とのバランスを考え、価格面でどこまで他の交通機関と対抗できるかを考えていかなければならない。

コスト上昇の要因は、途中の駅で頻繁に乗客が入れ替わる昼行列車と異なり、夜行列車は1度使った部屋はほかの乗客に販売しないので効率が悪いことだ。ベッドリネンも使用後はすべて洗濯しなければならない。また、車両は基本的に夜行専用車であり、昼行列車などに使用することはない。さらに、繁忙期と閑散期の需要変動が大きい点も、コスト増大の要因となっている。

ヨーロッパで夜行列車が再び隆盛を誇るまでにはまだ険しい障害が多く待ち受けており、それを1つひとつ乗り越えていかなければならない。だが、その障害を乗り越えられれば、コロナ禍の収束後には夜行列車の新しい黄金時代が幕を開けることになるだろう。そしてこの先進むべき道を誤らなければ、その黄金時代は長く続いていくものと筆者は確信している。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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