原作ファンが怒る「ざんねんな映像化」頻発の背景 原作者は映像化にどこまで口出しできるのか

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映像版の著作者は製作者であるため、オプション契約書に明示しないかぎり、原作者の意向が映像に反映される確証はどこにもないと考えるべきです。下記のように、某出版社が仲介した映像化オプション契約書には、第5条「ブランド管理」とあります。しかし制作側がこれをどの程度考慮してくれるかは未知数です。人によって捉え方が変わると言われれば反論の余地もありません。

■映像化オプション契約 ―第5条1項は原作者にとって重要―
第5条(ブランド管理)
1、(出版社名)は、本件映画の製作及び利用にあたり、著作者の名誉、信用及び本件原作のイメージを尊重すると共に、許諾先がこれらを毀損しないよう適切に指導及び監督する。
2、(出版社名)は、本件映画の海賊版、模倣品を発見した場合、または本件映画の著作権侵害の事実を確認した場合には、速やかに著作者に報告すると共に、事後の対応について著作者と協議する。

同契約書の第3条には、原作の内容が変更されることに対し、あらかじめ許諾を求められます。2項により脚本は事前に確認させてもらえますが、原作通りにやることを前提とはしないと明文化されています。

■同じく映像化オプション契約書 ―尊重はされるが決定権はない―
第3条(本件映像化の製作及び利用等)
1、著作者は、本件映画の製作及び利用の過程において、本件原作の内容に変更が加えられることがあることについて予め了承する。
2、(出版社名)は、本件映画の製作過程において、本件映画の脚本を著作者へ提出し、その意見を聴取し、尊重する。但し、脚本内容の最終決定には(出版社名)又は許諾先が行うものとし、著作者はこの旨予め承諾する。

提案もすべて受け入れられるとは限らない

プリプロダクション(正式な制作に入る前の準備段階)は、作品によって進み具合が違いますが、出版業界に慣らされている小説家からすると、たいてい面食らうような速さです。送られてきたプロットにいくつか意見を出し、「細かいところは後から指摘すればいいや」と思っていると、もう脚本の準備稿ができあがってきます。

とくにテレビドラマの場合、脚本に提言できるチャンスは1回きり、それも早々に行わないと時間的に修正はもう無理と断られます。完成稿はどうせもう修正できないからと、最初から原作者には見せてくれないことも多々あります。

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提案もすべて受け入れられるとは限りません。原作者の意見として「映像版ではこうしたほうがいい」と言うと、「いえ、原作にこう書いてありますから」と変更を断られることさえあります。

たとえ原作者の意見であっても「映像化のアイディア」はとくに重視されるわけではありません。どうしても譲れない点はやはり、最初から契約書に盛り込んでもらいましょう。

原作のファンはよく「こんなにいじるのならオリジナル作品でやれ」と言います。製作者にとっては、原作があればまず企画書が成立するし、実際に企画も承認されやすいため、原作通りにする気はさらさらない前提ながら、ベストセラー小説を利用しようとします。有名な俳優や監督に声をかけたり、巨額の製作費を調達したりするのにも重宝します。

こうした状況を業界のせいにしたところで何の意味もありません。実際には良心的なプロデューサーもいますし、純粋に原作を映像化したいと願って声をかけてくる場合もあります。「日本の映画やドラマはダメだ」という、世間の偏見にとらわれてはなりません。原作者は映像業界に対し、正しい認識を持つべきです。

松岡 圭祐 小説家

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まつおか けいすけ / Keisuke Matuoka

1968年生まれ。1997年に小説家デビュー。「万能鑑定士Q」「探偵の探偵」「千里眼」「高校事変」「水鏡推理」などの人気シリーズ、『催眠』『ミッキーマウスの憂鬱』『蒼い瞳とニュアージュ』などミリオンセラーや映像化作品を多数執筆。

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