運賃高すぎ北総線、ついに「値下げ」可能性が浮上 累積損失解消にメド、地元「大きな一歩」と歓迎

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例えば、千葉ニュータウン中央駅と隣の印西牧の原駅間(約4.7km)は1駅で310円(紙の切符の場合、以下同)。これは京成本線なら160円の距離だ。都心へは3つの鉄道会社にまたがるためさらに割高となり、千葉ニュータウン中央―日本橋間(約36km)は1150円。首都圏のJR線なら650円の距離だ。通勤定期3カ月だと13万3710円にもなる。他路線と比べて大幅に高額であることから、運賃問題は長らく地域の課題となってきた。

2019年度の決算発表時には「依然として厳しい経営状況」であるとしていた同社が運賃値下げの可能性を検討する方針を示した背景には、コロナ禍の厳しい状況でも一定の利益を確保した点がある。

同社の収入は運賃(旅客運輸収入)のほか、京成スカイライナーやアクセス特急の線路使用料、そして運輸雑収として千葉ニュータウン鉄道の設備修繕管理費があるという。コロナ禍によって乗客数は減ったものの、大手私鉄各社が軒並み赤字を計上する中、北総は黒字だった。

6月23日に発表した2020年度決算は、乗客減によって旅客運輸収入が前年度比25.3%減の94億7100万円となり、これに伴って売上高に当たる営業収益も前年度比24.2%減の134億4700万円となったものの、営業利益は22億1000万円、純利益は12億6100万円と21期連続で黒字を確保。ピーク時の1999年度に447億円だった累積損失は31億5200万円まで圧縮した。これによって、「あと2年で累積損失を解消できる見込みが立った」(同社企画室)。

「歴史的出来事」地元は評価

同社は「値下げはこれまで長い間課題だった。検討にはこれから着手するが、沿線の維持発展のために前向きに考えたいと思っている」(同社企画室)と説明する。

地元・印西市の板倉正直市長は6月23日、「長年、市の最重要課題として取り組んできた北総鉄道の高運賃問題が、ついに大きな一歩を踏み出し、市民の声が運賃値下げへの道筋を後押しした歴史的な出来事だと思います」とのコメントを発表。沿線の期待はさっそく高まっているようだ。

また、千葉県の熊谷俊人知事は同日の県議会本会議で、「(北総の)室谷正裕社長と会談し、早ければ令和4年度中にも累積損失を解消できる見込みであるとの発言があったため、高運賃問題についての検討を要請したところ、積年の課題である運賃値下げの可能性の検討に着手したいとの前向きな話があった」と明らかにし、「沿線住民の利便性や沿線活性化に資するような新たな運賃体系が実現されるよう会社に対して働きかける」と述べた。

現状ではあくまで「値下げの可能性の検討」であり、コロナ禍による経営への影響も見通せない中、実現するかどうかは今後の検討次第といえる。だが、長年の課題だった北総線の高額運賃問題解決に向けて一歩を踏み出したことは間違いないだろう。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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