カマラ・ハリス氏が銀行相手にかつて闘った理由 不正に住宅を差し押さえられた住民を救済
銀行との闘いのなかで、それらがただの数字や非現実的な理屈などではなく、人の人生を左右する問題なのだということをまざまざと思い知らされる話をたくさん聞いた。住宅所有者との意見交換会では、ある女性が、資金を貯めて1997年に購入した家のことを誇らしげに語った。大人になって初めて手に入れた家だという。
2009年初めにローン返済が1カ月滞ったため、女性は借入先の金融機関に電話でアドバイスを求めた。担当者は力になると言ったものの、説明もなしに書類を送りつけて署名を要求した。これでもかこれでもかと書類を書かせてファックスで返送するよう指示したのだ。質問の答えが一向に得られないまま何か月も過ぎたあげく、彼女は家を差し押さえられた。
泣くのをこらえながら話をしてくれた女性は、私にこう言った。「すみません。たかが家のことだってわかっているんですけど……」。しかし、彼女も、私たちも、それが「たかが家」で片づけられる問題でないことはよくわかっていた。
ハリス氏が受けたショック
全州会議に初めて出席する機会は、3月初めに訪れた。全米州司法長官協会──正しい略語はNAAG──が、ワシントンDCのフェアモントホテルで数日間にわたる年次総会を開いていた。私はチームとともにワシントンに飛んだ。50州の州司法長官が顔をそろえ、州名のアルファベット順に並んだ席に着く。私の席はアーカンソー(Arkansas)とコロラド(Colorado)のあいだだ。
一般的な議題から全州捜査に話が移ると、捜査が完了していないことが瞬時にわかった。答えが出ていない疑問がまだいくつもあったのだ。にもかかわらず、和解について話し合っていた。彼らはある数字について検討していたが、どうやら要するに和解を前提に話しているようだった。残された仕事は補償金を州で分配することだけらしい。それが目の前の現実だったのである。
開いた口がふさがらなかった。その数字の根拠は何だ? どこから引っ張り出してきた数字なのか? 捜査も終わっていないというのに、どうすれば和解交渉ができるというのだろう。
だが最もショックを受けたのは、補償金の額が恣意的に決められたことではなかった。和解と引き換えに、銀行は将来のいかなる潜在的請求からも全面的に免除される──どんな罪を犯していたとしても責任を追及されない──という条件がついていたのだ。すなわち、ロボット署名の問題で銀行と和解すれば、住宅価格の暴落を引き起こしたモーゲージ担保証券関連の訴訟を起こすことを今後禁じられる可能性があるのだ。
休憩中、私はチームを集めた。和解についての議論は午後に再開される。「会議には出ないつもりよ」。私はそう告げた。「こんなの出来レースじゃない」。会議に出たところで話の続きが始まるだけだ。新顔の司法長官が懸念を表明したぐらいで検討し直すとは思えなかった。だが、出るべき交渉の場から私が引きあげたと知ったら、考えを変える州が出るかもしれない。
カリフォルニアはどの州よりも差し押さえ件数が多く、そのため銀行の債務負担も最大だった。私と和解できなければ、銀行は誰とも和解できない。自分にそれだけの影響力があるのは自覚していたものの、それを行使する意志があることをほかの人たちに信じさせることができるかとなると、話は別である。午後のセッションを欠席すれば、主のいない椅子は私が何か言うよりも正しいメッセージを伝えるはずだ。
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