「スタバ×町の老舗喫茶店」が生む新たな憩いの場 顧客の思いも踏まえ木々を生かした受け継ぎ店に

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「くすの樹」開業2年後の1981年、国内の喫茶店数は「15万4630店」とピークを迎えた。それが最新の2016年調査では「6万7198店」(※)と半分以下になった。

※総務省統計局「事業所統計調査報告書」「経済センサス」をもとにした全日本コーヒー協会の資料による。

内訳は公表されていないが、筆者の取材結果では、とくに減ったのは個人経営の喫茶店だ。理由はさまざまだが、売り上げ不振以外は人気店でも、(1)店主の高齢化と後継者不足、(2)店の設備の老朽化、(3)建物老朽化による立ち退き(近くに最適な代替場所が見つからない)が多かった。

なぜ、スタバを選んだのか

「店を取り壊し始めてから、たくさんのテナントさんから出店依頼がありました。でも、どの案件も帯に短し、たすきに長しでした。出店されても、売り上げ不振などで数年後に撤退されてしまうと、こちらも困ります。そんなときに、大手不動産経由で『スタバさんがいいんじゃないですか』とお話をいただいたのです」(同)

欽司さんは「コーヒーを捨てられない気持ちが残っていた」と明かす。国内最大手で、地域との共生にも注力するスターバックスが名乗りを上げたのは、渡りに船だったのだ。

「店まで近いので、今も朝4時半に起きてクスノキの周りを掃除しています」とも話す。

関係者を取材してみて、「いろんな条件が整った幸運な事例」だと感じた。

老朽化した人気店をどこかが受け継ごうとしても、敷地などの立地環境がそろう物件は珍しい。東京都内の人気店跡地を訪れた経験があるが、小さな空地となっていた。西東京新町店は店舗面積だけでも約190平方メートル(約58坪)あり、駐車場も備えることができた。

また、かつて都内で人気だった個人チェーン店(閉業)は、品位のある接客も売り物だった。ある有名チェーン店が受け継ぎたいと申し入れたが、前オーナー側が断ったという。

コロナ禍で外食は厳しい状況が続くが、郊外店の客足は戻ってきている。今回の事例は、資金力とデザイン力を備えたスタバだからできた一面もあるが、個人店の“思いを踏まえて”大手が受け継ぐのは、「地域の居場所」として1つのあり方だろう。

テラス席の横にも保存樹木「イトヒバ」がある(筆者撮影)
高井 尚之 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント

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たかい なおゆき / Naoyuki Takai

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。

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