鉄道会社の「手荷物検査」、現実には高いハードル 省令改正で「拒否なら強制退去」も運用には課題

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実際には大規模イベント開催時の会場周辺駅での実施などに限られそうだが、どのように禁止品(とくに危険物)の持ち込みを阻止するための点検をするのだろうか。

航空機であれば搭乗前に手荷物検査を含めた保安検査があり、機内持ち込みに関しては厳格に管理されている。しかし、列車が駅を発着する本数は飛行機が離着陸する頻度と比較にならないくらい多い。乗降客数も考えると空港のような保安検査は事実上不可能である。厳格に行えば、鉄道の持つ利便性が損なわれるという意見もある。

2019年に東京メトロの駅で実施したボディスキャナーの実証実験(撮影:梅谷秀司)

行きかう多数の人全員を対象にして網をかけるのが困難ということであれば、たとえばAIなどの最先端技術を利用して「怪しい」と選定した人のみを対象に手荷物検査への協力を求めるのか、まったくランダムに抜き打ちで行うのか、という選定方法を定める必要もある。点検対象者の選定・特定の手法によっては、乗客のプライバシーなどを指摘する声が上がることも予想される。

国交省はこれまでにボディースキャナーや爆発物探知犬を使った実証実験を実施してきており、今後具体的な方法が検討されそうだ。

利用者の理解が不可欠

また、現場の対応として、これまで“乗る者拒まず”的な面の強かった公共交通機関たる鉄道の係員が、合理的な理由なく手荷物検査への協力を拒否した旅客に対して、現実に乗車拒否や敷地外への退去を強制するという毅然とした対応をとらせることができるのか、というのも具体的な運用上問題になるだろう。

2019年にJR東京駅で実施した危険物探知犬の実証実験(撮影:尾形文繁)

いかに法令や制度を整えたとしても、それが適正かつ効果的に運用されなければ画竜点睛を欠くことになる。そして鉄道事業者や現場が安全確保のための手段を適正かつ効果的に運用するためには、市民や利用者がその手段へ理解を深め協力に応じるという社会的な素地が作られることも必要である。

もちろん、鉄道事業者や現場の係員が手荷物検査を行うにあたって、恣意的・差別的な運用をしたり旅客のプライバシーその他の利益を必要以上に侵害したりすることは許されない。省令の改正だけにとどまることなく、鉄道事業者と利用者が相互に理解を深め、より安全な鉄道輸送が担保されることを望む。

小島 好己 翠光法律事務所弁護士

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こじま よしき / Yoshiki Kojima

1971年生まれ。1994年早稲田大学法学部卒業。2000年東京弁護士会登録。幼少のころから現在まで鉄道と広島カープに熱狂する毎日を送る。現在、弁護士の本業の傍ら、一般社団法人交通環境整備ネットワーク監事のほか、弁護士、検事、裁判官等で構成する法曹レールファンクラブの企画担当車掌を務める。

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