さらに中国は日本によるワクチン供給案が明らかになると、日本側にも牽制をかけた。5月31日、中国外交部の汪文斌・副報道局長は「日本は現時点で自国のワクチンも十分な確保ができていない」とし、「ワクチン援助は生命を救うためだという理念に戻り、政治的な私利のための道具にしてはいけない」と語った。
実際、日本から台湾へワクチンを提供する案が浮上した際に「世論の反対が起きないかはひとつの焦点だった」と自民党外交部会の議論に参加する国会議員の1人は明かす。台湾にアストラゼネカ製のワクチンを供給しても数量は足りるものの、日本国内でワクチン接種が進んでいないなかで、他国にワクチンを供給することに批判が起きかねないとみられたからだ。5月27日から28日にかけて台湾へのワクチン提供案が浮上しているとの報道も世論の反応をみる観測気球だった。
「台湾への恩返しをしようという後押しを感じた」
懸念は杞憂だった。台湾への提供予定が日本では接種を見合わせていたアストラゼネカのワクチンであったこともあるが、「メディアの報道姿勢やそれらへの反応から台湾への恩返しをしようという後押しを感じた」(前出議員)。台湾ではアストラゼネカのワクチンが他社製に先駆けて承認されている。
正式な外交関係がないことや中国からの圧力を回避するために、当初は国際的なワクチン共同調達の「COVAX(コバックス)」を通じて供給する方法も検討された。ただ、時間がかかることが課題となり、日本政府は緊急措置として日台間の援助の一環としてワクチンを提供する決定を下した。今後も複数回にわたり、台湾にワクチンを提供するとみられる。
今年4月に行われた日米首脳会談後の共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性」という形で1969年以来、52年ぶりに「台湾」という単語が盛り込まれ、日本として正式な外交関係がない台湾とどう向き合うかが問われている。今回の迅速なワクチン提供は日本の世論が支持すれば、日本は主体的に台湾に関わることができるという実績になった。
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