人を死に追い込む「ことば」と感染症の怖い共通点 ノーベル賞作家・カミュの「ペスト」を読み解く
新型コロナウイルスの感染拡大によって、改めて注目が集まり、広く読まれるようになったアルベール・カミュの『ペスト』。作家の高橋源一郎は、『ペスト』で語られる恐ろしい感染症は、まさに「ことば」のようだと言う。
SNS上での誹謗中傷や「炎上」といった人から人へと憎悪が感染していく様子は、もはや日常のように見える。「ことば」は人を殺すこともできる。そして、否定の「ことば」に感染したが最後、私たちが立ち向かえるのは「ことば」によってのみなのだ。
本稿は、高橋源一郎さんの書籍『「ことば」に殺される前に』より一部抜粋し、お届けします。
カミュ著「ペスト」はフィクションだが…
2020年、「新型コロナウイルス」がやって来て、多くの人たちの生活が変わった。ぼくの生活も、もちろん。
その中で、一冊の本が、広く、深く、読まれた。アルベール・カミュの『ペスト』である。広く読まれた理由は、もちろん、「ペスト」が、「新型コロナウイルス」と同じ、世界規模の感染症だったからだ。しかし、深く読まれた理由は、異なっているし、明確でもない。そもそも、カミュの『ペスト』は、ドキュメンタリーではなく、フィクションだったのだ。
ぼくにとっても驚きは大きかった。読み返すのは、ほぼ半世紀ぶりだった。最初に読んだ頃には、「ぺスト」とは、この小説が書かれる直前に終わった「第二次世界大戦」、「戦争」の比喩である、そう読むのがふつうだった。
しかし、今回は、もっと別の箇所が、目覚ましく浮かび上がってくるのを感じた。おそらく、著者がもっとも読んでもらいたかったのは、この箇所だったのだ、と思えた。
登場人物のひとりタルーが、主人公の医師リウーに、こう告げるシーンだ。
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