人生の折り返し、47歳「中年の危機」の向き合い方 映画「47歳人生のステータス」が描く悲哀と再生

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本作で描かれる「ミッドライフ・クライシス(中年の危機)」とは、発達心理学の分野で研究が進められてきた概念で、カナダの心理学者エリオット・ジャックが1965年に提唱した。中年期にさしかかったあたりで、家庭や職場での役割の変化、そして加齢などによる体力の衰えなどから、現状に対する不満や焦り、迷いなどを感じたり、他人と比較して満たされない思いにかられたりするなど、ストレスを感じる状態になることを言う。

余談だが、日本のコメディー映画である周防正行監督の『Shall we ダンス?』がアメリカでヒットした原因のひとつとして、同作の主人公が漠然と抱いていた「ミッドライフ・クライシス(中年の危機)」がアメリカの観客にも共感を持って迎えられたこともあったと言われている。

スターになることがすべてではない

本作の監督、脚本を担当したマイク・ホワイトは、作品制作のきっかけは自分の父親に関する物語を書きたかったことにあったという。

そして、牧師であったにもかかわらず、自分の人生に疑問を持っていたという父親について「わたしは父を愛している。彼自身が、自分が期待しているように生きることが一度もかなわなかったと感じていたとしても、わたしは父を成功者だと思っている。この映画を作りたかった理由のひとつに、それを伝えたかったというのがある」と語る。

主人公ブラッドのキャスティングはさじ加減の難しいものだったが、今回の役柄にベン・スティラーはうってつけだったとホワイト監督は評価する ©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

さらにインタビューの中でホワイト監督は、自分自身が、他人の成功をうらやみ、比較してしまうという厄介な感情があることを認めている。「それは決してカッコいいものではないが、自分の中にそういう感情があることは自覚しないといけない。わたしたちは皆、特別な存在になりたいと思っているし、自分の人生のスターになりたいと思っている。でもそれがすべてではない」のだと。

本作の主人公ブラッドの、大学時代の4人の友人たちは皆、華々しいキャリアを築いている。ニック(マイク・ホワイト)はハリウッドの大物に、ジェイソン(ルーク・ウィルソン)はヘッジファンドの経営者に、ビリー(ジェマイン・クレメント)はハイテク企業の起業家に、そしてクレイグ(マイケル・シーン)は政界の情報通でベストセラー作家となった。テレビや雑誌などのメディアを通じて彼らの活躍ぶりは嫌が応にも入ってくる。そして彼らのSNSには、富と名声を得た彼らの華やかな暮らしぶりが投稿されている。

SNSが発達した現代は、その投稿の真偽はともかくとしても、他人の生活を簡単にのぞき見ることができる。そのことで好奇心が満たされる一方で、劣等感にさいなまれる可能性もある。ブラッド自身も、今の自分の暮らしと、彼らの暮らしを比較して、クヨクヨするなんてばかげているとは思いながらも、自分が負け犬だと思われているのではないかと感じてしまう。みじめさは強まる一方だ。

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