65歳以降働く人の「年金繰り下げ」はお得なのか

年金額が目減りする「落とし穴」に要注意

老齢厚生年金は報酬比例部分と経過的加算額からなります。65歳以降、老齢厚生年金を受給している人が被保険者として厚生年金に加入中の場合、報酬(給与や賞与)次第で報酬比例部分がカット(支給停止)される在職老齢年金制度があります。

「47万円基準」(2021年度の場合)といわれ、総報酬月額相当額(給与、直近1年の賞与の12分の1)、基本月額(報酬比例部分の月額)の合計で47万円を超える場合に、超えた分の2分の1について年金がカットされます。もし、繰り下げ受給をする場合は、繰り下げ受給開始までは実際には年金を受給していないことになりますが、65歳から受給を開始したものと仮定して、在職老齢年金制度による停止額を算出し、残りの停止されない部分について繰り下げ増額の対象となります。

例えば、65歳受給開始の場合の老齢厚生年金(報酬比例部分)が年間120万円(65歳前の加入記録で計算)で、65歳から給与(標準報酬月額)が月額53万円、賞与なしで厚生年金に加入したとします。仮に65歳から老齢厚生年金を受け始めると、報酬比例部分の月額10万円(120万円÷12)+給与53万円で合計63万円となって、基準額47万円を16万円超えることになります。そして、その超えた16万円の2分の1である8万円の年金がカットされ、残り2万円が支給される計算となります。月額10万円のうちの2万円が支給され、年額でみると、120万円のうちの24万円が支給される計算です。

つまり、報酬比例部分全体の20%分が支給されることになります。もし、70歳0カ月で繰り下げ受給する場合で、65歳から70歳までの5年間でみても平均して20%支給される計算(平均支給率20%)となった場合であれば、その20%分に対して繰り下げによる増額がされ、年額10万800円(120万円×20%×42%)の増額となります。

本来、120万円に対する42%は50万4000円になる計算ですが、実際の繰り下げの増額は10万800円となり、増額分は50万4000円よりかなり少ないことになります。繰り下げ受給開始までの平均支給率をもとに算出することになりますので、在職中の給与や賞与の額が変わると、当然繰り下げで増額される年金も変わることになります。

65歳以降も働くなら、繰り下げ決定は慎重に

極端な話、65歳から70歳までの厚生年金加入中の給与や賞与がかなり高く、報酬比例部分が5年間全額支給停止(平均支給率は0%)と計算される場合は、70歳0カ月まで繰り下げをしても、報酬比例部分についての繰り下げ増額分はありません。老齢厚生年金は、カットされない残りの経過的加算額にしか増額されないことにもなります。65歳以降も勤務している人は「働いていると年金がカットされることだし、今は受け取らず繰り下げしよう」と考えるところでしょうが、繰り下げを考えている場合は、「カットされる分を計算したうえで増額がされる」というルールを、65歳を迎える前に理解しておくことが大切です。

また、配偶者や子供がいる場合に老齢厚生年金に加算される加給年金は繰り下げ受給開始時以降でないと加算されませんが、こちらについても繰り下げの増額対象になりません。しかも、最大でも配偶者が65歳、子供が18歳年度末(一定の障害がある場合は20歳)になるまでしか加算されませんので、繰り下げ受給開始時期次第では加算がないこともあります。

以上のことをまとめると、老齢厚生年金の全額が70歳繰り下げで42%、75歳繰り下げで84%の増額を受けられる場合というのは、「65歳以降厚生年金加入をしていない場合で、加給年金もない場合」となります。しかし、実際65歳以降勤務するとこのようにはならず、繰り下げでそこまで年金が増額されない人が今後増えることにもなるでしょう。

複雑な仕組みですが、「年金が思ったほど増えない」ということがありますので、繰り下げ受給は慎重に考えて決める必要があります。ただ、65歳からの年金について、65歳時点で65歳受給開始(増額なし)を選択すると、あとで繰り下げ受給に変更はできません。老齢厚生年金はあまり増えない注意点はあるものの、繰り下げを考えていてまだ受給しないでいる人(繰り下げ待機している人)には、あとになってから、65歳にさかのぼって65歳受給開始(増額なし)を選択する方法などがあります。65歳以降、繰り下げ待機しつつ、就労状況や健康状態などをみながら、じっくり受給方法を考えて決めるのも1つの手となるでしょう。

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