冷凍餃子の「手間抜き論争」がバズった理由 「企業と生活者が共に紡ぐ物語」のつくり方

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味の素冷凍食品の餃子はなんと、144もの工程を経て作られている。キャベツを手作業で刻み、具材をこねて、研究を重ねた薄い皮にあんを包み、皮の弾力を高めるために蒸しあげる──これらの工程の1つひとつを、キャプションのみで多くを語らずナレーションすらない、でも、高クオリティーでスピード感ある1分15秒の映像に仕上げた。尺が短いのは、ユーチューブ視聴を前提としているからだ。

タレントが工場を見学する案も出たが、この動画で重要なのは「従業員があなたに代わって手間と愛情を込めて作っている」ことを可視化すること。「手間抜きナラティブ」においては、味の素冷凍食品は登場人物の1人、物語の一部でしかないのだ。

こうしてアンサー動画は約1カ月というスピードで制作され、「おいしい冷凍餃子の作り方~大きな台所篇~」というタイトルで10月初に公開、公式なプレスリリースを出し、企業としての姿勢表明を行った。

リリースの内容は、8月からの一連の「冷凍食品は手抜き? 手間抜き?」論争に対しての企業としての驚き、反響への戸惑いとともに、料理をする人が「手作り信仰」に毒されている状況に対して疑問を呈することは社会的にも意義があると捉え、「手間抜き」動画を公開します、というものだ。

1カ月弱で90万回再生を達成

動画の反響は大きく、1カ月弱で90万回再生を達成。“古い男性的”価値観を壊すものとして、ジェンダー論の専門家が味の素冷凍食品の発信を支持したほか、「手間抜きは合理的」だとして、勝間和代氏などの評論家もアクションを支持。有識者やインフルエンサー、メディアに好意的に受け入れられた。

そして、味の素冷凍食品の従業員、とりわけ工場で働く人のモチベーションが上がった。さらに営業担当の間でもこれを売り上げに結び付けようとする気運が高まったという。

「冷凍食品をうまく利用していただいて、有意義な時間に使ってください」という味の素冷凍食品の思いに共感が生まれ、ストーリーとしてうまく展開しメディアや有識者、SNSなどがそれに巻き込まれたのだ。

味の素冷凍食品の動画は、次のようなメッセージで締めくくられる。

「最後の仕上げは、あなたのフライパンで」。

手抜きではなくて手間抜き、というナラティブは、同社と生活者が共につくりあげたものだ。論争へのアンサーソングとして制作されたこの動画の最後で、味の素冷凍食品は再びバトンを生活者に渡している。「コミュニケーションの余白」が、意図的に設けられているわけだ。

このメッセージには、SNSでも「この言葉を見て、味の素さんと一緒に料理して作った餃子なんだなぁと思うとうれしかったです」「たくさんの手間を食品工場が代わりにやってくれて、最後の一手間として、フライパンで焼いてくださいね、ということですね」といった好意的な反応が相次いだ。

まさに、同じ物語に参加しているという「共体験」の構造がそこにある。

本田 哲也 本田事務所代表取締役、PRストラテジスト

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ほんだ てつや / Tetsuya Honda

「世界でもっとも影響力のあるPR プロフェッショナル 300 人」に 『PRWEEK』 誌により選出されている。「PRWeek Awards 2015」にて「PR Professional of the Year」受賞。1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年ブルーカレント・ジャパン代表。2019年より現職。著書に『戦略PR 世論で売る。』(アスキー新書)、『その1人が30万人を動かす!』(東洋経済新報社)など。国連機関のアドバイザーなどを歴任。世界最大の広告祭カンヌライオンズで公式スピーカーや審査員を務めている。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)理事。

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