「起業志望の若者は甘い」と語る22歳起業家の真意 理想実現のためには「ダークな部分」を直視せよ

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ビジョナリーカンパニーとか、ビジョンが大事だということが叫ばれてはいますが、経営者がビジョンを定めて「ここに行こう」と言う形では、どこまでいっても限界があると感じています。それでは結局、経営者が見ている世界観にしかたどり着けないからです。

しかし、「問いであり、ビジョンでもある」という状態ができれば、みんながそれを描いている、総和の脳みそが使えます。群知能のような考え方ですが、そうすることによって、より最適化されたところにたどり着けるのではないかと考えています。オープンソースに近い経営かもしれません。

リクルート創業時とは時代感覚が違いますから、一概に比較はできませんが、江副さんは、会社の名前から人に決めさせて権限移譲したり、オーナーシップを与えたりしています。そして、社員に「君はなにをしたいの?」と問いを投げかけています。

リクルートが、現在もポートフォリオをしっかり揃えている会社であることも、そうなる社内基盤が序盤の段階でかなり出来上がっていたからだと思います。

江副さんではない人が、経営に参加し、オーナーシップを持っている。働いている人たちが、自分が代表だという自覚を持っている。それは、この1つの事業だけで行くぞ、という経営者の頭の中のビジョンを突き詰めていっただけでは作れないもののはずです。

そしてそれは、僕自身がやりたいこと、そのものだと思いました。

時価総額だけではない会社の評価軸

現在のルールでは、僕たちのような資本参画していただいている会社は、往々にしてイグジットが前提になっています。スタートした時点で、M&Aか上場かという道がトロッコのように走り出しているわけです。

そうなると、採用はできるだけコストを削り、社員を酷使させることが「経済合理性が高い」ということになってしまいます。ともすれば手段と目的が倒錯することもありうるという難しさがあり、ずっと考え抜かなければなりません。

ただ、その中でも、上場を狙い、時価総額などの経済的なインパクトだけを見るのではなく、社会的なインパクトによってより評価を加算することができるのではないか。そんな軸を作っていく必要があると思うのです。

アメリカでは、社会起業家と呼ばれる人々がたくさん登場しています。経済的な価値だけではなく、環境に対するインパクトや、社会に対していかに悪影響を及ぼしていないかといったことを評価基準とした「B-Corp」という指標があり、各社その認可を目指しているのです。パタゴニアなどがその先駆的な会社です。

単純に製造販売するだけでなく、それがどのように社会貢献になっているのかという評価軸は、アメリカでは何年も前から着目されていて、すでにメジャーになっています。シリコンバレーでも、起業する際、単に上場を目指すのではなく、社会にとってその事業がいいのかどうかということを考えるようになっています。

アメリカは、GAFAのような資本主義の権化の台頭を経たいま、こういった考え方が社会に浸透するようになりました。一方、日本では、GAFAほどの起業家は少なかった。だからこそ逆に、勝機ととらえていいかもしれませんね。

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