在日ミャンマー人が語る「国へ強制送還」の恐怖 抗議集中の入管法改正、「命のビザ」の行方は…

拡大
縮小
JILA主催の集会で外務省、入管庁担当者と向き合う在日ミャンマー人

ミャンマー人のサポートを続けてきたJapan Immigration Lawyers Association(JILA)の専務理事、古谷武志氏はこう指摘する。

「ハンさんはクーデター後、初の保護対象者になるかもしれません。なぜなら、送還停止効の例外の例外として、事情変更を証する資料の提出により、改正入管法で救済される道がひらかれているからです」

古谷氏が目をつけたのは、入管法改正案第61条の2の9第4項第1号における、難民の認定等手続きと退去強制の関係に関する以下の条文だ。

〈難民の認定又は補完的保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料を提出したものを除く〉

「難民申請3回以上で送還対象に」との批判が集まる条文のあとに添えられた一文。古谷氏はそれを「命のビザ」と名付けて期待を寄せている。

「ハンさんにとって、中心メンバーとしてデモに参加したり、メディアの取材を受けているような画像は『相当の理由がある資料』になり得ます。軍ににらまれ、帰国した瞬間につかまる可能性が高いことを立証できるからです」

過去5年で難民申請が認められたのはたったの1人

ハンさんの仮放免許可書の裏にあるスタンプ 。今年1月8日、送還について告げられた

しかし、多くのミャンマー人がそうなる保証はない。

過去3年、日本に難民申請をしたミャンマー人は、2018年656人、2019年788人、2020年602人。いずれも却下だった。直近で認められたのは2016年。わずか一人だった。

今年3月、米国バイデン政権は在米ミャンマー人約1600人全員に対し、18カ月の滞在猶予期間を認める決定をした。「難民鎖国ニッポン」の汚名返上に「命のビザ」を生かせるか。日本政府の判断が問われている。

尾崎 孝史 映像制作者、写真家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おざき たかし / Takashi Ozaki

NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わる。映画『未和 NHK記者の死が問いかけるもの』(Canal+)を監督。

著書に『汐凪を捜して 原発の町 大熊の3・11』(かもがわ出版)。『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』(岩波書店)。写真集『SEALDs untitled stories 未来へつなぐ27の物語』(Canal+)で日隅一雄賞奨励賞、JRP年度賞。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT