菅首相、「最低会見」で遠のく五輪開催への道 緊急事態の解除条件示せず、広がる五輪中止論

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菅首相は「ワクチン(接種)の加速化を実行すること、そしてそれまでの間に感染拡大を食い止めること。この2つの作戦に先頭に立って取り組む」と何度も強調。一方、感染が収まらずに宣言延長に追い込まれたことを問われても、「人流の減少という所期の目的は達成できた」とむきになって言い返すだけだった。

こうした首相の対応については政府分科会のメンバーからも「人流を減らすのは手段で、目的は感染を抑えることなのに」と不満と困惑の声が相次ぐ。首相サイドからは「これでだめなら、もはや感染を抑える対策は見当たらない」とあきらめに似た声も漏れてくる。

菅首相は「ワクチンが最後の砦」(側近)として、接種の加速化に猛進するしかなくなったとみられ、多くの政府与党幹部は「菅さんと会ってもワクチンの話しかしなくなった」と苦笑する。

五輪のために帳尻合わせ

1日当たり100万人接種という目標についても、「五輪開催のための帳尻合わせの数字」(閣僚経験者)との指摘が相次ぐ。

菅首相はこれまで「7月末までに高齢者全員に2回のワクチン接種を済ませる」と繰り返してきた。現状では、全国的なワクチン接種本格化は5月下旬からと見込まれており、「7月末までの約70日間に3600万人の高齢者への2回接種を済ませるには、計算上1日100万回前後の接種が必要」(分科会メンバー)というわけだ。

そこで問題となるのが、接種の主体となる地方自治体の体制整備だ。これについて菅首相は「1700のうち1000の自治体で(7月末までの高齢者接種完了は)可能との報告を受けている」と説明した。

これは、菅首相の強い指示を受けた総務省が全国の自治体に回答を求めた結果だ。しかし、多くの自治体トップは「いきなり7月末までの接種完了が可能かどうかを項目別に回答する〇✕式の文書が送られてきたので、努力目標との意味でほとんどに〇をつけざるをえなかった」と苦しい胸の内を明かす。有力県知事は「むしろ✕を付けた700の自治体のほうが正直な反応」と解説する。

こうした実態を菅首相が理解したうえで、「7月末までの完遂」を宣言したのかどうか不明だが、首相秘書官経験者は「今の秘書官は首相が不機嫌になるような報告はしないようだ」と首をかしげる。その上で「現状を無視したような発言メモを首相に渡す秘書官の責任も大きい」と苦言を呈する。

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