百貨店「また休業」で早くも崩れる再建の青写真 業界の陳情は実らず、気になる大手の資金繰り

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今回の緊急事態宣言の期間は4月25日から5月11日まで17日間の「短期集中型」となる予定。対象地域も現時点では東京都、大阪府、兵庫県、京都府の4都府県のみで、1回目の緊急事態宣言よりは影響は限定的とみられる。

ただ、書き入れ時であるゴールデンウィークを直撃する影響は大きく、仮に17日間で宣言が解除されたとしても、消費マインドの悪化は避けられない。

休業でも当面の資金繰りは確保

休業した場合に心配なのが、各社の資金繰りだ。手元資金(現預金と短期有価証券の合計)を平均月商で割って算出し、短期的な支払い能力を示す手元流動性比率は、三越伊勢丹HDが1.3倍、高島屋が1.9倍、Jフロントが2.0倍、エイチ・ツー・オーリテイリングが1.3倍(三越伊勢丹HDとエイチ・ツー・オーは2020年12月末時点、高島屋とJフロントは2021年2月末時点)。

百貨店はもともと現金商売が主体で手元資金は他業種と比べて少なめだったが、昨年の長期休業を経てからは各社とも積み増しており、高島屋とJフロントは安全性の目安とされる2倍程度を確保している。一方、三越伊勢丹HDとエイチ・ツー・オーはやや心もとない状況だ。

三越伊勢丹HDでは仮に全店が休業してキャッシュがまったく入ってこない場合、1カ月の資金流出は150億円程度になる。同社の手元資金は846億円(2020年12月末時点)あるうえ、取引先金融機関から800億円程度のコミットメントライン(融資枠)を確保しているとみられる。

他社も融資枠を持っており、大阪を拠点とする近鉄百貨店では100億円のコミットメントラインが未使用のまま。「こうした事態に備えて手は打っており、仮に長期間休業しても大丈夫な程度の手元資金はある」(広報担当者)という。

このように、大手各社とも当面の資金繰りには支障がないと言える。問題は緊急事態宣言が延長を繰り返したり、対象地域が全国に拡大された場合だ。政府の専門家会議の尾身茂会長も4月23日、「最低でも3週間は必要と思う」と言及した。

昨年4~5月に起きたような、全国レベルでの1~2カ月にわたる長期休業という、最悪の事態にも備える必要がありそうだ。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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