アップル発売「AirTag」何がそれほど凄いのか 探し物のエコシステムを構築しようとしている

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アップルは近日配信予定のiOS 14.5で、「Find My」(探す)アプリを刷新する。AirTagを含む持ち物を探す機能を追加し、アップルデバイスや友人・家族などの人に加え、モノの場所を見つける機能を実現する。すでにサードパーティーからは、電気自転車、ワイヤレスヘッドフォン、探し物タグなどの対応製品がアナウンスされており、「MFiライセンス」を通じて仕様を公開することで、AirTagアクセサリーも含めた探し物のエコシステムを構築しようとしている。

確かに自分の持ち物が、自分の近く、すなわち自分のiPhoneとの間でBluetooth通信ができる範囲内にあれば、自分のiPhoneの位置情報を用いた場所の特定ができる。あるいは自分のiPhoneとの通信が途絶えた場合、その途絶えた場所が最終地点だと解釈すれば、そこを探すと見つかる確率が高い。ただし日常生活で日々探し物をしていれば、それだけでは不十分であることがおわかりになるはずだ。今現在の正確な場所がわからなければ、見つからないということだ。

そこでアップルは、全世界に10億台を超える稼働中のiPhone、iPad、Macを用いた「Find My Network」を構築した。自分のiPhoneとの接続が途切れても、他人のiPhoneやiPadがAirTagのBluetooth電波を捉えれば、AirTagにモバイル通信機能やGPSを持たせなくても、AirTagの現在の位置情報を特定できる。

言うなれば、他力本願で、位置情報と通信手段を確保しようというのが、AirTagとFind My Netowrkの活用だ。こうして、AirTagは電池を多く消費するLTEやGPSを搭載しなくて済むため1年間ボタン電池で稼動でき、ユーザーは世界中のデバイスを大捜索網として活用する、ミライ感あふれるアイデアを利用できるようにした。

また紛失モードにすると、AirTagに内蔵されるもう1つの無線技術、NFCの動作も変わる。誰かが落ちているAirTagを見つけて、スマートフォンを近づけると、ウェブサイトが開いて紛失したことを知らせるメッセージや連絡先を見ることができる。同時に、なくした人には、そのAirTagが誰かに見つけてもらえたことが知らされる。

対応するスマートフォンはiPhoneだけでなくAndroidも含まれており、アップルデバイスのみならず、世界で85%以上の普及率を誇るAndroidユーザーをも巻き込もうとしているのだ。

アップルが蓄積するエコシステムの価値化と実装力

AirTagのような持ち物トラッカーはTileなどすでにさまざまな製品がリリースされており、アップルの参入に先進感を感じることはない。ただ、小さなボタンのようなデバイスに、Bluetooth、UWB、NFC、加速度センサーを閉じ込め、開口部なしで音を鳴らす新しいスピーカー技術まで用いるその高い実装力は、なかなかマネできない芸当だ。

さらにiPhone・iPad・Macを用いて世界中のデバイスを探索網、Find My Networkに仕立て上げ、しかも近年主張を強めているプライバシー保護と探し物の問題解決の両立という難しい課題をクリアしている点も評価すべきだ。

アップルはBluetoothデバイスを作るメーカーやアクセサリメーカーを巻き込みながら、エコシステムを構築しようとしている。同様の製品の登場を歓迎する姿勢で、「世の中からなくし物をなくす」という壮大な目標実現のために行動している点で、問題解決を主軸に置いている姿勢が透けてくる。

日本ではセブン-イレブンで、アンカーの充電器などと共に、アップル純正アクセサリーが販売されるようになった。AirTagもコンビニで手軽に購入できるようになると、ユーザーの裾野が広がるのではないだろうか。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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