欧米のワクチン議論、今の焦点は「接種間隔」だ 「人数優先の1回接種」で効果を上げたイギリス

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アメリカ疾病対策センター(CDC)は、モデルナまたはファイザー/ビオンテックのワクチンを1回接種してから2週間後に新型コロナに感染するリスクは80%減少すると報告している。さらに1回の接種による免疫は少なくとも12週間持続することがイギリスの研究でわかっている。

エマニュエル氏は、2回目の接種を先送りして1回接種の人数を増やす作戦は、イギリスが感染者数を1月のピークから95%も減少させるのに役立ったと指摘する。「目を見張る成果が出ている」という。

反対派は何を恐れているのか

感染症と進化生物学を研究するシカゴ大学のサラ・コビー氏は、同じ手法を使えばアメリカでも救える命は増えたはずだが、アメリカはせっかくのチャンスを逃したと考えている。「タイミングを失し、すでに多くの人々が死んだ」と同氏。

それでも、エマニュエル氏によれば、2回目の接種を遅らせる価値はある。アメリカでは1日におよそ300万回の接種が行われているが、その半分近くが2回目の接種に使われている。これに対し、エマニュエル氏は、アメリカに供給されるワクチンの全量を1回目の接種に振り向けるべきだと主張する。

同氏の研究チームの計算では、そうすればアメリカの接種率は2〜3週間でイギリスに追いつける。1回目の接種で免疫を獲得する人の人数が増えれば、ワクチン接種を済ませた人々の命を救えるだけでなく、接種を済ませていない人々への感染も減らせる。

ただ、研究者の中には、接種間隔の引き延ばしによってイギリスの感染者数が減ったと考えるのは時期尚早だとする声もある。

アメリカにおける感染症研究の権威、アンソニー・ファウチ博士も「イギリスはロックダウン(都市封鎖)など他の対策も講じてきた」と指摘する。

ガウンダー氏は「封鎖を解除したイギリスでこれから感染者数のリバウンドが起きるかどうかを見るまで、判断は下せない」と話す。ワクチン接種間隔を広げる実験に手を出すよりは、もっと基本的な感染対策を徹底したほうが賢明、という立場だ。

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