欧米のワクチン議論、今の焦点は「接種間隔」だ 「人数優先の1回接種」で効果を上げたイギリス

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しかしバイデン政権の医療顧問をはじめとする反対派は、接種間隔を広げるのは間違いだと主張する。彼らが警告するのは変異株の脅威だ。すでに流行している変異株だけではない。ワクチンで中途半端に免疫を獲得した人々を増やせば、そうした人々の体内でウイルスが新たな変異株に進化しかねないという指摘である。

この議論は昨年12月、ワクチンの有効性に関する治験結果が明らかになったころから始まっていた。例えばファイザー/ビオンテックのワクチン治験で被験者は、2回目の接種から2週間後に強力な免疫を獲得した。とはいえ、1回目の接種からわずか10日後であっても、ワクチンを投与された被験者は偽薬を投与された被験者に対し発病しにくくなることもわかっていた。

そのころ、イギリスでは「B.1.1.7」と呼ばれる極めて感染力の強い変異株が流行し、感染者数が急増していた。そこでイギリス政府はファイザー/ビオンテックとアストラゼネカの2種類のワクチンを承認すると、変異株の流行に対抗するため、これらワクチンの2回目の接種を1回目から12週間後まで引き延ばすことにした。

イギリスの成功を前に、アメリカ政府は抵抗

こうした方針おかげで、イギリスは1回目の接種人数を際立ったペースで増やすことができている。4月半ばの段階で、イギリスでは全人口の49%が少なくとも1回の接種を済ませた。これに対しアメリカの数字は37%にとどまっている。

1月には、アメリカでも一部の研究者からイギリスを見習うよう政府に要望する声が高まった。

しかし政府は、パンデミックの最中に効果が十分に検証されていない変更を行うのは軽率だとして従来の方針を維持した。1回のワクチン接種だけでも早い段階で一定程度の免疫が得られることは治験によって確認されているが、部分的に獲得された免疫がどれくらい持続するかはわかっていない。

「深刻な被害の可能性が考えられる策を議論するには、裏付けとなるデータが示されなくてはならない」。バイデン大統領の新型コロナウイルス対策諮問委員会のメンバーとなっているベルビュー・ホスピタル・センターのセリーヌ・ガウンダー医師はそうクギを刺す。「政府方針を覆せるだけのデータはないと思う」。

ところが最近では、接種間隔の引き延ばしを訴える側の論拠が強まっている。1回の接種で何週間と続く強力な免疫が得られることを示すデータが積み重なってきているのだ。

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