サンデル教授が語る「大卒による無意識の差別」 「努力すれば成功できる」という発想の問題点

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――対話ができたとしてもアメリカのような国で、分断された人たちが共通のゴールや、サンデル教授がいう共通善(個人や特定の集団ではなく、社会全体共通の善)を見出すことは難しくありませんか。バイデン大統領にできることはあるのでしょうか。

政治家たちが何十年にもわたって掲げてきたメッセージを変えなければいけません。民主党も共和党もこれまで、グローバル化による不平等を解消するには、高い教育を受けることだと唱えてきました。そうすれば上に行くことができる、と。グローバル経済で成功するには大学に行け、自分が学んだことは自分が得るものに直結する、頑張ればなんでも手が届く、といったメッセージはレーガン時代から発せられてきました。

しかし、バイデン大統領はこのメッセージを変えなければいけない。能力主義による競争を助長するのではなく、仕事の尊厳を取り戻すことに重きを置くべきです。社会に貢献している誰もが自分のしている仕事の尊厳を感じられるようにするのです。

コロナが変わるきっかけになるかもしれない

今回のパンデミックは、例えば家で働ける人とコロナ禍でも働きに行かないといけない人など、これまでにもあった格差を露呈しました。しかし、同時に家で働ける人たちが、医療従事者だけでなく、工場労働者やスーパーの店員、配達員、保育士、トラック運転手などコロナでも外で働く人たちにどれだけ頼っているかということに気づくきっかけになりました。必ずしも高給や社会的な名誉を得ているわけでもない人たちや、その仕事の重要性に気づき、エッセンシャルワーカーと呼ぶようなったのです。

コロナが、こういう仕事にもっと尊敬の念を払う必要がある、という議論のドアを開くことになると期待しています。バイデン大統領はこれをきっかけに、労働者における仕事の尊厳とは何かを改めて考えるべきではないでしょうか。

――バイデン大統領自身は、「見過ごされている、見下されていること」について、労働者層がエリート層に怒りを抱いていることに気がついていると思いますか。

不確かではありますが、気づいている可能性はあります。実際、大統領選挙中のスピーチで、自らは裕福な家庭の出身ではなく、自分の父親が苦労した経験を話しています。「人々があなたを見下したとき、尊敬の念を払わないときにどんな気持ちになるかわかる」と。これが、能力主義ではなく、労働の尊厳に重きを置くメッセージや政策にシフトするスタート地点になる可能性はあります。

――今回の著書の中では、能力主義に代わるものとして、「条件の平等」を掲げています。つまり、どんな仕事をしていようと、稼ぎがどれくらいであろうと、誰もが幸せを感じられる社会を実現するということです。ですが、これが実現した場合、「何か難しいことを成し遂げよう」「高い教育を得よう」と考えるモチベーションはどうやったら養えるのでしょうか。

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