ヤクザが刑務所のことをあえて「大学」と呼ぶ理由 彼らが刑務所の中で読む本とはいったい?

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溝口:ちなみに司は若いころ、出身母体の弘道会が名古屋を統一するための戦いで、大日本平和会系の組と抗争した際、12年ぐらい懲役に行っています。

山一抗争(1981年、山口組四代目を竹中正久が継いだことに反発した山広組組長・山本広が一和会を結成。終結までに25人の死者を出した抗争)のときには、一和会の中核団体である山広組系の組の若頭をさらって、脱会届を書かせるなど、かなりの働きをしていました。彼にもそれなりの暴力的な功績があったのでしょう。

鈴木:しかし、あまりに長く収監されすぎてしまうと、それはそれでヤクザとしてのチャンスを逃すことになります。

溝口:そういうことですね。抗争において組長クラスは、功績を得る仕事をしたうえで、自分は捕まらないということが大切。

鈴木:兵隊には兵隊の、部隊長には部隊長の役目がある。

溝口:今は指示したことがわかったら実行犯でなくても組長が殺人教唆で捕まることになり、懲役20年は行くでしょう。そうすると、その間が空白になって、組運営に加わるなんていうことは到底できなくなる。だから、捕まらないようにしなければならない。

もはや親が子をかばうような時代ではない

鈴木:実際は、暴力団において親分が関知しない殺人などありえません。裁判になったときのことを考え、直接的な表現を避けるなど、教唆にならないテクニックを駆使しても、リスクを覚悟し、はっきり意思表示をしないと組員は動けません。

昔のように親分は子分を庇ってくれません。顔色を見て、心情を察して殺したなんて言ったら、勝手なことをしやがってと処分されかねない。親分が教唆してない殺しなんてない。にもかかわらず、捕まらないということは、子分が絶対に口を割らないからです。つまり、親分がそれだけ心酔されていて、組織も統率されている。

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その前提として、ヤクザ組織が維持できるのは、人柱になってくれた組員のおかげである。彼らあってのわれわれだ、実行犯の犠牲のおかげだ、いつも感謝しよう、みんなで称えましょうという気風はヤクザの基本です。雑誌のインタビューでも、抗争での物故者や実行犯を必ず称賛します。

溝口:6代目山口組の2次団体、司興業組長の森健司から、若頭の高山清司の言葉を聞いたことがあります。「懲役に行ってくれる者がいるから、わしらはうまい飯を食えるんだ」というのが高山の口癖なんだと。場合によっては、現役の組員よりも懲役に行った組員を大事にする。そういう伝統があるから、弘道会は抗争に強いんだと、森健司は言っていました。

溝口 敦 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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みぞぐち あつし / Atsushi Mizoguchi

1942年東京都に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒。出版社勤務など経てフリーに。2003年『食肉の帝王』(講談社+α文庫)で講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『詐欺の帝王』(文春新書)、『暴力団』(新潮新書)など多数。暴力団、半グレなど、反社会的勢力取材の第一人者である。

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鈴木 智彦 ライター

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すずき ともひこ / Tomohiko Suzuki

1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。週刊誌、実話誌などに広く暴力団関連記事を寄稿する。

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