テキサス新幹線「日本基準丸飲み」決着の全内幕 日本より厳しい「衝突耐性」どう克服した?

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2014年3月から2016年3月まで2年間にわたってテキサスセントラルと連邦鉄道局が議論を重ねた。その結果、防護柵でプロテクトされた専用線を構築し、営業時間帯は高速車両のみが走行する、営業時間帯と保守時間帯を分離する、踏切は排除するといった新幹線の安全を支える仕組みを全面的に採用すれば、ほかの列車との衝突リスクや脱線リスクは「無視できるレベルになる」と結論付けられた。

連邦鉄道局はRPAの前文に「東海道新幹線のサービスプルーブンな技術、運転、保守を成文化した要求を制定することにより、システム全体の健全性を保持できる」と記載している。要するに新幹線と同じ手法で高速鉄道を運営すれば安全だということだ。連邦鉄道局の安全担当責任者からこんなメッセージがあったという。「日本の新幹線の技術は心配していない。新幹線システムはアメリカでも同様に機能するはずだ。だが、扱うのはアメリカ人である。アメリカにJRの安全文化をいかに根付かせるかが最大の課題である」――。

RPAを一読して驚くことは、車両の最高時速を330kmと記載するなど、単位がメートル法で記載されていることである。アメリカではインチ、マイルなどのヤードポンド法が主流であるにもかかわらずだ。メートル法の後にカッコ書きでヤードポンド法の単位も併記されているとはいえ、メートル法を主とする単位表記は画期的である。「メートル法で管理しないと新幹線と同じ運営はできないことを連邦鉄道局が認めたということ」(南氏)だ。

2020年3月に公表されたRPAの素案に対して、フランス国鉄(SNCF)がRPAに反対するパブリックコメントを提出した。SNCFが運行する高速鉄道「TGV」は在来線に乗り入れるタイプであり、専用線方式の新幹線を認めるわけにはいかない。SNCFは新幹線システムは高速鉄道の安全基準に合致していない、専用線を走る新幹線は在来線に接続できないなどの主張を展開したが、RPAをくつがえすものではなかった。

「新幹線の安全基準」海外でお墨付き

新幹線システムが全面的に採用された結果、テキサス高速鉄道で走行する車両はN700Sとほぼ同じとなる。しかし、細部では車両の設計変更が必要な項目もあった。アメリカは銃社会であり、窓ガラスに銃弾を撃ち込んで耐久性を検証する試験も行われた。防火基準も連邦鉄道局の判断で変更することはできない。こうした結果、運転台の窓ガラス、防火対策、異常時の脱出・侵入窓、脱出経路の表示、身体障害者対応設備といったものが、設計変更の対象となった。

アメリカが新幹線の安全性を評価した意義は極めて大きい。新たに高速鉄道を導入しようと考える国が欧州の規格を採用してしまうと、そこに新幹線が入っていくことは難しい。しかし、今回RPAという形で新幹線の安全基準がアメリカのお墨付きを得たことで、海外に新幹線の売り込みを行う際にRPAをベースにすることが可能になる。

残るは、テキサスの高速鉄道プロジェクトに必要な投資額が集まるかどうかだ。そのためには、まずアメリカ雇用プランが議会の承認により立法化され、このプロジェクトにバイデン政権がどれだけの補助金を出すかが鍵となる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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