外出自粛が気づかせた「コロナ前の日常」の異常 会社や学校に行かないことが救いになった人も

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いままで、ものすごいスピードで動いていたものが、急激にスピードダウンしましたよね。私の周りの、いわゆる「引きこもり」の人たちから「なんだか安心した」という声もありました。

池上:言ってみれば、みんな「引きこもり」になったので、自分は例外じゃない、だから救われたんでしょうね。

「緊急事態宣言で救われた人もいる」と話す池上氏(写真:村越将浩)

現在、東京工業大学の学生や卒業生と、毎月、読書会を開いているんです。緊急事態宣言後は、オンラインでの読書会になりました。そうすると、東工大には、少なからず引きこもりがちな学生もいるので、「すごく気が楽です」って言われました。あ、そうなんだ、と。緊急事態宣言で救われる人もいるんだ、と。

私が勤める相愛大学(大阪市)にもいました。普段から休みがちな学生や、家からあまり出ない子が、一定数いますが、その子たちが非常に元気でしたね、オンライン講義になって。

池上:やっぱり。

私は、柳田國男の言う「ハレ(晴れ、霽れ)」と「ケ(褻)」を思い出しました。「ハレ」は、儀礼や祭祀、年中行事などの「非日常」。「ケ」は、普段の生活である「日常」。しかし、新型コロナウイルス以前は「ハレ」が常態化していました。

かつては、ちょっと外食するのも「ハレ」だったわけですよね。ところが今、外食するのが「ハレ」だと思っている人は、ほとんどいません。すべてが「ハレ」のテンションで、ずっと社会も動いていた。これは、きついと思うんですよ。「『ケ』がない」、「『ケ』が枯れる」というのは「気が枯れる」ことですから、個人も社会も疲弊することにつながります。

ハレのテンションでずっと暮らすとしんどい

ところが新型コロナウイルスで緊急事態宣言が発令され、急速に社会にブレーキがかかると、ちょっと外出するのも「ハレ」の気分になる。すると「ケ」も立ち上がります。ずっと外食していたのは、もしかしたら特別な状況だったんじゃないか、と自らの日常も見直せます。

外食産業が苦戦しているのは、こういった意識の変化も影響しているでしょうね。もちろん「ハレ」のテンションでずっと暮らしたい、そのほうが経済が回る、という考え方もあるとは思いますが、それがしんどいことに気づいた人も、たくさんいるはずです。

池上:確かにそうですね。東京でずっと「ハレ」の状態でいなくてもいいんじゃないか。そう考える人が増えたのは事実ですね。私も活用していますが、オンライン会議やテレワークができるようになったのも大きい。現に、総務省の住民基本台帳人口移動報告では、2020年7月から、東京都内で他の道府県への転出が転入を上回る「転出超過」の現象が続きました(2020年12月現在、転出超過が継続中)。

新型コロナウイルスは憎いですけど、一方でこういった意識の変化を起こしたことは事実ですよね。首都圏の鉄道各社も、「たとえ新型コロナウイルスが収束しても、テレワークの定着などで完全に客足は元に戻ることはない」として、終電の繰り上げや減便を次々に打ち出しています。深夜都心で遅くまで飲んで、翌朝、満員電車でまた都心に戻ってくる、という状態がそもそも異常だったのではないか、と気づいた方もいるでしょう。

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