日本のPTA、やっぱり変です 教育の現場で見た、思考停止と性差別

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教育長の、驚きの性差別発言

もっとビックリしたのが、PTAの各種行事の世界です。専業主婦の非常に多い地域であることも影響しているのでしょうが、どの集まりでも参加者はほとんど女性しかいません

先日、渋谷区の教育委員会が主催する研修会に出たところ、見渡す限り女性でした。平日の昼間ですから当然なのかもしれませんが、アメリカのPTAでは平日でもこんな経験をしたことはありません。父親が休みを取っていたり、開催時間が遅めに設定されていたりするからです。

その講演で、多数の聴衆を前に、森富子さんという年配の教育長が、食育に関連して「(食事を)作るのはお母さんたちですから」と堂々とおっしゃったので、目が点になってしまいました。女性で小学校の校長先生まで務められ、教育委員会で教育長にまで出世なさった方が、なぜこのようなことを平然と言えるのか、理解できません。何十年も女性ばかりのPTAを見てきて何の疑問も持たれなかったのでしょうか。政治家や首長・役職者などが、公の場でこんな発言をすれば、問題になるのは明らかだと思うのですが。

たとえば、もし仮に安倍首相がこんなことを言ったら、マスコミは飛びついて批判をし、「『女性の活用』なんて主張するけど、しょせんはこの程度の理解」と大騒ぎになるでしょう。閣僚が一言漏らしただけでも、任命権者である首相の責任が問われるはずです。

教育長は、首長が(議会の承認を経て)任命する教育委員(5人)の互選で選ばれます。地方教育行政法4条1項には教育委員の要件として、「人格が高潔で、教育、学術及び文化に関し識見を有するもの」とあり、この発言は任命した渋谷区長の責任にもかかわる問題なのです。

あまりに驚いたので、講演の後ですぐに手を挙げて、「『作るのはお母さんですから』というのは、性差別的な発言で問題です」と指摘したところ、返答では「すみません、お父さんも、あとおばあちゃん。うちはおばあちゃんでした」と、これまた迷言。こちらは「男は仕事、女は家庭」という固定的性役割分業規範を問題視しているのであって、お母さんをおばあちゃんに変えたところで、問題は何も解決しません

ちなみにうちでは夕食を作るのは、基本的に私の役割です。子どもたちには、「夕食は父親が作っていた」という記憶を残したいと、いつも思っています。「作るのはお母さん」という発言は、男性の家事参加を否定し、女性を家事に縛りつける言葉であるはずです。

抗議への対応に見る、根本的な無理解

後日、文書で抗議したところ、区の男女共同参画の行動計画にそぐわないという点を認めたうえで、「参加者に女性が多く、それを意識しての発言となった」とのこと。いくら指摘をしても、こちらの問題提起をわかってくださらないようです。仮に聴衆が100%女性であったとしても、もしくはそうであればなおのこと、公の立場にある人間が、「食事を作るのは母親の仕事」などと固定的性役割分業規範を肯定することは許されません

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